再給電方式がローカル系統に拡大、出力制御の順番が変わる
昨日扱った出力制御には続きがある。再エネが余ったときに「何を止めるか」ではなく、どの電源から、どの順序で止めるかのルールが2026年4月1日に切り替わった。東京電力パワーグリッドが首都圏のローカル系統で再給電方式(一定の順序)の運用を始めた。これは2023年12月に基幹系統で確立した順序──火力電源等からファーム接続の長期固定電源まで一定の順番で絞る運用──を、ローカル系統へ広げた射程の拡張にあたる。順序の一部にはすでにメリットオーダー(運用コスト順)が組み込まれており、その経済化が需給調整市場と接続される制度進化の地図を、入口側から基礎で解く。
014月1日、首都圏のローカル系統で「順番に止める」運用が始まる
2026年4月1日、東京電力パワーグリッドが、混雑が想定される首都圏のローカル系統について、再給電方式(一定の順序)に基づく出力制御の本格運用を始めた。混雑とは、その送電線で運べる量の上限を電源側の発電が上回りそうになる状態を指す。ローカル系統では2024年4月から、上限に近づくと特定の接続区分(後述するノンファーム電源)を一律で絞る運用がすでに始まっていた。今回はそれを、優先給電ルールに沿った順番で絞る再給電方式へ切り替えた更新にあたる。
同じ運用は、基幹系統では2023年12月28日に全10エリアで開始されている。今回は、それが配電に近いローカル系統まで降りてくる節目にあたる。地方の長距離送電(基幹)で起きていた混雑処理の経済化が、都市圏に近い中位系統にも適用範囲を広げた、と言い換えてもよい。
混雑処理がローカル系統まで降りるということは、出力制御の量や経済的な影響が、これまで以上に末端の発電事業者に届くことを意味する。昨日のノートが「余った電気をなぜ捨てるか」を扱ったのに対して、ここからは「誰の電気を、どんな根拠で先に止めるか」が論点になる。
そもそもローカル系統とは、発電所から需要家まで電気を運ぶ経路のどこに位置するのか。下図で全体の階層を押さえておく。
02「再給電方式」とは何か
言葉を押さえる。再給電方式とは、送電線が混雑したときに、混雑している側で発電している電源の出力を絞り、混雑していない側で別の電源の出力を増やして、需給バランスと混雑解消を同時にやってのける運用を指す。読み方は「さいきゅうでん」。海外ではリディスパッチ(redispatch)と呼ばれる方式で、欧州各国の系統運用ではすでに長く使われている。
日本でこの方式が広く使われてこなかった背景には、接続契約の前提がある。空き容量のある送電線に先に契約した者から順に使える先着優先のルールで運用され、空きがない区間にはノンファーム型接続(混雑時には出力制御を受ける条件付きの接続)が後付けで導入されてきた。混雑時には、まずノンファーム電源を一律に絞る──という、機械的だが粗い運用が一定期間続いた。
再給電方式は、この粗い運用を二段階で経済化する。第一段が、2022年12月21日に基幹系統で始まった再給電方式(調整電源の活用)。一般送配電事業者が契約している調整電源(発電量を上げ下げできる電源)を使って、混雑側を下げ・非混雑側を上げ、バランスを保つ。第二段が、2023年12月28日に全10エリアの基幹系統で始まった再給電方式(一定の順序)。調整電源では足りないとき、優先給電ルールに沿った順序で、調整電源以外の電源──火力・ノンファーム再エネ・長期固定電源──まで絞る対象を広げた。
今回の4月1日は、この第二段の運用範囲を基幹からローカルへ降ろした更新にあたる。順序の中身そのものは基幹系統での運用と通底しており、新規の発明があったわけではない。重要なのは、適用される系統と対象電源が広がったという射程の拡張の方にある。
03ファーム接続まで含む順序が、ローカルに広がる
ローカル系統での今回の変化は、火力電源等から長期固定電源まで含む一定の順序が、ローカル系統にも適用された点にある。この順序自体は新しい発明ではない。基幹系統では2023年12月の再給電方式(一定の順序)開始時点で、ファーム型接続の火力電源等や電力貯蔵がすでに出力制御の対象に置かれ、長期固定電源も順序の最後尾に並んでいた。今回はその同じ枠組みが、ローカル系統に降りてきた。
ファーム接続とは、混雑時にも原則として出力制御の対象になりにくい、従来型の確定的な系統接続を指す。原子力・大型水力・地熱といった長期固定電源の多くがこの区分に入る。ノンファーム接続(必要時に止められる条件付き接続)の登場以前は、すべての電源がこのファーム接続で系統に繋がっていた。
東京電力パワーグリッドが公表した出力制御の順序は、一般送配電事業者の調整電源から始まり、火力電源等と電力貯蔵システム(揚水・蓄電池)、複数のノンファーム型電源を経て、最後に長期固定電源へと至る六段階で示されている(下図)。番号が小さいほど先に絞られ、下にいくほど最後まで残る設計で、最後尾の長期固定電源は、原則として最も守られる枠にあたる。この順序は基幹系統と同じもので、今回ローカル系統にも適用された。
あわせて、混雑が想定されるローカル系統(特別高圧以下)に接続する低圧電源(10kW未満を除く)の発電計画値を、配電用変電所(配変)ごと・電源種別ごとに電力広域的運営推進機関(OCCTO)へ提出する制度が4月から始まった。順番に絞るためには、誰のどの電源がいまどれだけ発電する見込みかを、配変単位で把握しておく必要がある。順序の運用を支えるのは、こうした計画値データの解像度の向上でもある。
「ノンファームを一律で止める」から「順序で止める」への移行は、運用の発想転換でもある。前者は接続区分という契約形態で機械的に対象を決めるのに対し、後者は優先給電ルールという電源の性質に踏み込んで順番を引く。形式から実体への踏み込みが、ローカル系統まで降りた──というのが本質に近い。
04制度進化の地図 ─ 旧運用からメリットオーダーまで
ここまでの流れを、時間軸の上で1枚に整理する。再給電方式は5段階の進化を辿っており、4月1日のローカル系統開始は、その第4段階にあたる。メリットオーダーは一部の電源にすでに組み込まれており、次の第5段階は、それを全電源へ広げる経済化になる。
05次にくるメリットオーダー化 ─ 経済で順序を決める
「一定の順序」は、優先給電ルールという制度的な序列で順番を引く。これに対してメリットオーダーは、運用コスト(燃料費・起動費など)の高い電源から先に止める運用を指す。発電を止めて節約できる費用が大きい順に絞るので、系統全体の発電コストが最小化される。経済合理性で順番を引き直す、と言い換えてもよい。
もっとも、現行の運用はすでに両者の混合になっている。東京電力パワーグリッドの今回の運用でも、調整電源とファーム型接続の非調整電源(火力電源等)については、限界費用単価の高い電源から絞るメリットオーダーがすでに適用されている。一方、太陽光・風力などは発電計画値に対する一律制御で絞る。つまり「一定の順序」の中に、コスト順で動く部分と一律で動く部分が同居している。これから進むのは、この経済化を全電源へ広げる方向になる。
この方向は政策的にも明示されている。資源エネルギー庁が2021年5月に公表した「再給電方式における費用負担等のあり方について」では、将来的に送電線利用ルールの全電源にメリットオーダーを適用する方向が示された。混雑処理が必要な電源は、自らの限界費用ベースのkWh価格を登録し、需給調整市場における価格規律と整合させながら順序を決めていく設計になる。
メリットオーダー化が進むほど、出力制御は需給調整市場と地続きになる。需給調整市場は、秒・分単位で需給を合わせる調整力を電源ごとに価格で買う市場で、すでに2022〜2026年にかけて段階的に開設・拡張されてきた。混雑時にどの電源を止めるかは、平常時の需給調整で誰の電源をいくらで使うかと同じ経済原理で決まっていく──ここに進化の重心が移る。捨てる電気の処理と、調整力の取引が、価格を共通言語として接続される方向にある。
もっとも、メリットオーダー化はそのままでは制度として動かない。混雑側で安い再エネを止めれば事業者の機会損失が大きくなり、補償スキームを誰がどう負担するかという論点が残る。費用負担のルールづくりが伴走しなければ、経済合理性の追求が逆に再エネ事業のリスクを増幅する──という反作用も視野に入れる必要がある。
06事業の目線 ─ 「順序の上位」が稼ぐ構造
順序が経済化していく方向は、電源ポートフォリオの収益構造を組み替える。視点を発電・系統運用の各プレイヤーに置いて、それぞれの目線で何が起きるかを整理する。まず、出力制御の順序(FIG.03)の各レイヤーに、実際にどんな事業者が参画しているのかを押さえておく。顔ぶれは代表例で、順位づけや網羅を意図しない。
| 順序上の位置 | レイヤーと役割 | 代表的な参画企業(例) |
|---|---|---|
| 順序を運用する側 | 系統運用。順序を引き、配変ごとの計画値を束ねる | 東京電力パワーグリッドほか一般送配電10社、電力広域的運営推進機関(OCCTO) |
| ①調整電源 | 出力を上げ下げして混雑を調整する火力等 | 電力各社、JERAほかの火力事業者 |
| ②電力貯蔵(揚水) | 余剰を汲み上げて貯め、混雑時に需要側として動く | 電源開発(J-POWER、大型揚水)、電力各社 |
| ②電力貯蔵(系統用蓄電池) | 順序の上位で稼ぐ新興レイヤー | パワーエックス、伊藤忠商事・東急不動産・自然電力、関西電力、三菱地所・東京センチュリー、豊田通商(ユーラスエナジー・テラスエナジー)、ハンファQ.ENESTほか。機器は東芝・日立エナジー・住友電工など |
| ③〜⑤ノンファーム再エネ | 先に絞られる太陽光・風力・バイオマス | ユーラスエナジー、レノバ、自然電力、JERA、オリックスほか多数のFIT・FIP事業者 |
| ⑥長期固定電源(ファーム) | 順序の最後尾。原則として最も守られる。原子力・大型水力・地熱 | 電力各社、電源開発(J-POWER、大型水力・地熱) |
| 需要側で束ねる | 小売・アグリゲーター/VPP。需要応答で順序の上位に潜り込む | 東京電力エナジーパートナー、東京ガス、大阪ガス、エナリス、Shizen Connect、REXEV、NEC・日立ほか百社超 |
再エネ事業者──まず効くのはノンファーム接続の太陽光・風力で、順序の中ほどで早めに絞られる。FIT・FIP契約での収益は出力制御を前提に再評価する必要があり、プロジェクトのIRR(内部収益率)に効くディスカウントレートの見直しが避けられない。ファーム接続の電源も順序の最後尾に並ぶため「絶対に止まらない」ではなくなったが、実際に絞られるのは最後で、原子力などが抑制される頻度は低い。
蓄電池・揚水事業者──順序の上位(②の電力貯蔵システム)に位置する。混雑時には先に「需要をつくる」側として動員され、止められる順番は再エネより遅い。蓄電所ブームの収益柱として整理した需給調整市場・容量市場に加え、混雑処理の運用そのものが収益機会の幅を広げる。メリットオーダー化が進めば、運用コストの低い蓄電池ほど稼働が伸びる方向に効く。
系統運用事業者(一般送配電・OCCTO)──順序の経済化を支えるためには、配変単位の発電計画値、限界費用ベースの価格、需給調整市場との接続といった情報基盤が要る。OCCTOと一般送配電事業者の役割境界は、これに合わせて再設計されていく。系統運用の自動化・市場化を担うITインフラ側にも、長期の投資余地が生まれる。
需要家・小売・アグリゲーター──「燃料費が高騰すると先に止まる電源」と「最後まで止まらない電源」の収益差が、メリットオーダー化で拡大する。PPA価格の設計や、自家発電・需要応答(DR)の経済価値の見方にも変化が出る。低圧VPP解禁の文脈と組み合わせれば、需要側を束ねて順序の上位に潜り込ませる事業設計の余地もある。
ただし、勝ち筋がプレイヤー単独で決まるわけではない。順序ルール・補償スキーム・市場接続のいずれも、制度設計の進捗に大きく依存する。誰が稼ぐかは現時点では構造で語る段階にとどまる──各社の戦略は、この制度進化のスピードと方向を読み続ける作業の上に組み立てられることになる。
結論:捨てる順序の「経済化」が次の主戦場になる
2026年4月1日のローカル系統開始は、出力制御の運用が「ノンファーム一律」から「順序」へ移る射程拡張の節目にあたる。基幹系統で確立した順序がローカル系統にも及び、契約形態ではなく電源の性質で順番が引かれるようになった。その先に控えるのが、運用コストの高い電源から先に止めるメリットオーダー化で、需給調整市場との接続まで含めて系統運用の経済化が一気に進む。再エネ事業者にとっては前提の崩れ、蓄電池・揚水にとっては収益機会の広がり、系統運用事業者にとっては情報基盤と役割境界の再設計──プレイヤーごとに効き方は異なるが、どの目線にも共通するのは、捨てる順序そのものが価格で動き始めるという同じ事実になる。電力の事業設計は、これからしばらく、順序を読む作業と切り離せない。
東京電力パワーグリッド「ローカル系統における再給電方式(一定の順序)の出力制御順に基づく出力制御の運用開始について」(東京電力PG、2025年10月8日。2026年4月1日から首都圏のローカル系統で本格運用、ファーム型接続を含む順序で出力制御)/東京電力パワーグリッド「ローカル系統における再給電方式(一定の順序)の出力制御順に基づく出力制御に関するFAQ」(東京電力PG、2026年2月。出力制御の具体順序:①調整電源 → ②火力電源等+電力貯蔵システム → ③ノンファーム型バイオマス〔地域資源以外、出力制御困難なものを除く〕 → ④ノンファーム型自然変動電源〔太陽光・風力〕 → ⑤ノンファーム型地域資源バイオマス〔出力制御困難なもの〕 → ⑥長期固定電源、低圧電源の発電計画値を配変ごと・電源種別ごとにOCCTOへ提出)/電力広域的運営推進機関「系統の接続および利用ルールについて〜ノンファーム型接続〜」(OCCTO、2024年7月1日更新。先着優先からノンファーム接続への移行、ローカル系統への適用拡大)/九州電力送配電「基幹系統への再給電方式の導入について」(九州電力送配電。基幹系統での再給電方式運用の概要)/一般社団法人送配電網協議会「基幹系統への再給電方式(一定の順序)の運用開始について」(送配電網協議会、2023年7月31日。全10エリアで2023年12月28日から運用開始)/資源エネルギー庁・電力・ガス取引監視等委員会「再給電方式における費用負担等のあり方について」(資源エネルギー庁、2021年5月12日。将来的にメリットオーダーを全電源に適用する方向)。なお本文・表中の参画企業は、各社プレスリリース・IR、報道、経済産業省/資源エネルギー庁の系統用蓄電池・VPP関連資料等に基づく代表例で、網羅・順位づけを意図しない。順序・対象電源・運用開始日・将来の方向性、および参画企業名は公開前に各一次資料で再確認する。