出力制御は再エネ主力化の試金石になる
電気は、つくる量と使う量が瞬間ごとに一致していなければならない。再エネが増えて昼に電気が余りそうになると、太陽光や風力の発電をあえて止めて捨てる——これを出力制御と呼ぶ。2026年3月、東京電力パワーグリッドが東京エリアで初めて出力制御を実施し、これで全10エリアが経験する局面に入った。本稿は、出力制御とは何か、どの電源から絞るのか(優先給電ルール)、なぜ全国に広がるのかを基礎から解き、最後に、その「余り」を埋める調整力という事業機会までを見通す。
01そもそも「出力制御」とは何か
はじめに言葉を押さえておく。出力制御とは、電気が余りそうな時間帯に、太陽光や風力などの発電をあえて止めて、つくれるはずの電気を捨てる措置を指す。せっかくの再エネを捨てるのはもったいないが、やむをえない事情がある。電気には「つくる量と使う量が、瞬間ごとにぴったり一致していなければならない」という性質があり(同時同量)、釣り合いが崩れると周波数が乱れて、最悪は広い範囲の停電を招く。
晴れて風の強い昼間は、太陽光と風力が一気に発電する。その量が地域の需要を超えそうになると、釣り合いを保つために、どこかの発電を減らすしかない。蓄電池にためたり、送電線で他の地域へ送ったりして吸収しきれない分は、最後に再エネ自身の発電を止める。これが出力制御にあたる。再エネが増えるほど、この「余り」が出やすくなり、捨てる量も積み上がっていく。
02東京も電気を捨てた ─ 全10エリアが経験する局面
その出力制御が、ついに首都圏にも及んだ。2026年3月1日の11時から16時にかけて、東京電力パワーグリッドが東京エリアで初めて再エネの出力制御を実施した。その規模は184万kW(うち太陽光・風力が181万kW、バイオマスが4万kW)にのぼる。これにより、北海道から沖縄まで全10エリアのすべてが出力制御を経験したことになる。かつては太陽光の多い九州など一部の地域に限られた現象が、いまや全国どこでも起こりうる事態へと広がった。
首都圏で初の出力制御を招いた直接の引き金は、原子力の復帰にあった。実施の3週間前、2月9日に柏崎刈羽原子力発電所6号機(定格出力約135万kW)が再稼働し、3月1日の出力制御はこの1基の出力を上回る規模になった。原子力のような長期固定電源は出力を小刻みに動かしにくく、優先給電ルールでも最後に絞る扱いになる(次節)。その電源が戻った分だけ需給に余りが生じやすくなり、再エネを止める判断につながった。
量の面でも傾向は続いている。太陽光の導入が突出して多い九州は依然として制御率が高く、東北や中国でも上昇傾向にある。複数のエリアで同時に出力制御がかかる場面も増えており、足元の制御量は増加傾向にある。資源エネルギー庁は2026年3月、こうした出力制御の長期見通しを示し、抑制策の必要性をあらためて整理した。
03どの電源から絞るのか ─ 優先給電ルール
電気が余りそうなとき、やみくもに止めるわけではない。どの電源から順に絞るかは、優先給電ルールという全国共通の順序で決まっている。コストや技術的な特性をもとに、止めやすいものから先に絞り、再エネはなるべく後に回す設計になっている。順序を図に示す。
図のとおり、太陽光・風力は④番目で絞られる。まず火力を抑え、揚水や蓄電池にため、連系線で他エリアへ送り、それでも余ればバイオマス、さらに余れば再エネ、という順序になる。原子力や大型水力などの長期固定電源は、出力を小刻みに上げ下げしにくいため最後に回される。再エネを最後の一歩手前まで使い切るための順序になっているが、それでも余れば再エネは止められる。
04なぜ出力制御が増えるのか ─ 余りと距離のズレ
出力制御が全国に広がる背景には、二つのズレがある。一つは時間のズレになる。太陽光は晴れた昼に一気に発電するが、電気を使うのは朝夕や夜にも広がる。昼につくりすぎ、夜に足りない、という需給のズレが、再エネが増えるほど大きくなる。もう一つは距離のズレになる。太陽光や風力の適地は、土地が広く日射や風に恵まれた地方に多い一方、電気を多く使うのは都市部で、つくる場所と使う場所が離れている。
この二つのズレを埋められなければ、余った電気は行き場を失い、出力制御につながる。対策は、時間のズレを埋める蓄電(ためる)、距離のズレを埋める送電(はこぶ)、余る時間に消費を寄せる需要側の工夫(吸収する)の3本柱になる。距離のズレ側では、北海道〜首都圏を結ぶ日本海ルートの海底直流送電(200万kW、国内4社が担う)のような大動脈の整備も動き始めた。出力制御の増加は、本シリーズで個別に追ってきたこれらの投資がなぜ急がれるのかという問いの、共通の答えにあたる。
05政策の本丸へ ─ 「主力電源化」への改組
制度の側でも、この問題の位置づけが上がっている。出力制御の抑制などを所管してきた審議会の小委員会は、2026年6月3日に名称を改め、「再生可能エネルギー主力電源化小委員会」となった。再エネを主力電源にするうえで、つくった電気を捨てずに使い切ることが、政策の中心的な課題として再定義されつつある。
絞る順序そのものの見直しも進んでいる。2026年度を目途に、固定価格で買い取られるFIT電源を先に、市場で電気を売るFIP電源を後に絞る——FIT→FIPの順へとルールを変える検討が進む。捨てる電気の負担を、市場との関わり方に応じて配分し直そうとする動きになる。
捨てる電気を減らせれば、再エネへの投資はそのぶん生きてくる。逆に、出力制御が増え続ければ、せっかく建てた発電所の稼働が下がり、投資の採算も揺らぐ。蓄電・送電・需要側の3本柱をどれだけ束ねられるかが、再エネ主力化の実現度を左右する。出力制御は、その進み具合をはかる物差しにもなる。
06出力制御の裏側 ─ 「調整力」という商品が動き出す
ここまでは、余る電気をどう減らすかを見てきた。視点を変えると、この「需給のズレを埋める能力」そのものが、売り買いされる商品になりつつある。電気が余りそうなら絞り、足りなそうなら出す——秒・分の単位で需給を合わせる力を調整力と呼び、それを取引するのが需給調整市場になる。出力制御を減らすための蓄電や需要側の工夫は、裏を返せば、この調整力の売り手にもなりうる。捨てられていた「余り」の隣で、需給を整える能力が新しい収益源として立ち上がっている。
事業の目線で見ると、ここに収益プールと参入余地が生まれる。蓄電池は、安い余剰時間に充電して高い不足時間に放電する価格差で稼ぎ、加えて調整力を市場へ売る。数百〜数万の小さな蓄電池やEVを束ねるアグリゲーター(VPP)という仲介層も立ち上がり、これまで電力会社の領域だった需給調整に異業種が入る余地が広がる。ただし、調整力の対価は供給が増えれば下がり、早く動いた事業者ほど高い収入を取る——早い者勝ちで、収益が制度設計に左右される局面でもある。
結論:出力制御をどれだけ減らせるかが再エネ主力化の通信簿になる
つくった再エネを捨てる出力制御が、2026年3月の東京エリア初実施で全10エリアに広がり、全国共通の課題になった。背景にあるのは、昼につくりすぎる時間のズレと、適地と需要地が離れる距離のズレで、これを埋められなければ電気は余って捨てられる。対策は、時間を埋める蓄電、距離を埋める送電、消費を寄せる需要側の3本柱に整理でき、本シリーズが個別に追ってきた投資はいずれもここに帰結する。出力制御をどこまで圧縮できるかは、再エネ主力化が掛け声で終わるか実体を伴うかをそのまま映す。そして、その余りを埋める「調整力」をどう収益に変えるかが、次の事業の主戦場になる。
東京電力パワーグリッド「再生可能エネルギー出力制御の実施について」(東京電力PG、2026年3月1日。東京エリアで11時〜16時に初実施、規模184万kW〔太陽光・風力181万kW+バイオマス4万kW〕。実施3週間前の2月9日に柏崎刈羽原発6号機〔定格約135万kW〕が再稼働し需給を押し上げた)/資源エネルギー庁「再生可能エネルギー出力制御の長期見通し等について」(資源エネルギー庁、2026年3月16日。全10エリアでの実施・制御傾向)/資源エネルギー庁「出力制御について(なるほど!グリッド)」(優先給電ルールの順序)/資源エネルギー庁・再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会は2026年6月3日に「再生可能エネルギー主力電源化小委員会」へ改組。優先給電ルールは2026年度を目途にFIT電源を先・FIP電源を後に絞る順へ見直しが検討されている。/日本海ルートの海底直流送電(200万kW・概算1.5〜1.8兆円)は、国内4社連合と海外勢(英フロンティア・パワー等)の2陣営が応募意思を示したのち、海外勢が応募条件を満たせず国内4社が有資格事業者に決定(OCCTO・電力各社の発表および報道、2024〜2025年)。実施日・規模・エリア・優先給電の順序と見直し・原発再稼働・制度改組・送電事業者の選定は公開前に各一次資料で再確認する。