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Global Macro / Insights Notes

いま問われる送電線の整備、7兆円計画が動く

電力広域的運営推進機関(OCCTO)の広域系統マスタープランは、2050年までに約6〜7兆円の系統増強を見通し、その本丸が北海道〜東北〜東京を結ぶ海底直流送電(200万kW)になる。この200万kWを2030年度を目指して整備する計画で、海をまたぐ大工事ゆえに資金調達などの課題も抱える。蓄電池の接続をめぐる動きは系統用蓄電池の申込6倍、国は「空押さえ」選別へで扱った。本稿は、系統や海底直流の仕組みから、誰が・いくらで・いつ作るのかまでを基礎から整理する。

01そもそも「系統」と「送電網」とは何か

本題に入る前に、土台になる言葉を押さえておく。系統(電力系統)とは、発電所から家庭や工場まで電気を届ける送電網・配電網の全体を指す。電気は、発電所で「つくる」、送電線・配電線で「はこぶ」、需要家が「つかう」という流れで届き、この網の全体が系統にあたる。電気には「つくった量と使う量が瞬間ごとに一致していなければならない」という性質があり(同時同量)、系統はこの需給を秒単位で合わせ続けている。

このうち、長い距離を大きな電力で運ぶ背骨を送電網と呼ぶ。高い電圧で遠くまで電気を送り、需要地の近くで電圧を下げて配電網へ渡す。発電所をいくら建てても、蓄電所をいくら並べても、需要地まで運ぶ送電線が細ければ、電気は届かない。送電網は、電力システムの「はこぶ」層を担う。

02なぜ送電線の整備が再エネ主力化のカギになるのか

再エネを主力にするほど、送電網の細さが効いてくる。理由は、電気をつくれる場所と、電気を使う場所がずれていることにある。風力や大規模太陽光の適地は、風が強く土地が広い北海道や東北に多い。一方で電気の消費は、人口と産業が集まる首都圏に偏る。つくる場所と使う場所が遠いほど、その間を結ぶ送電線の太さが、再エネをどれだけ生かせるかを決める。

運ぶ線が足りないと、二つの問題が起きる。北の地域では、つくった再エネを送り切れずに発電を止める出力制御(つくった電気を捨てる措置)が増える。同時に、新しい発電所や蓄電所を系統につなぐ系統制約も強まる。つまり、発電(つくる)と蓄電(ためる)をいくら積み増しても、それを需要地へ運ぶ送電網が太くならなければ、再エネ主力化は頭打ちになる。送電の整備がいま問われるのは、こうした事情による。

03広域系統マスタープランとは ─ 2050年へ約6〜7兆円

この課題を国全体で解くための設計図を、広域系統マスタープラン(広域系統長期方針)と呼ぶ。電力会社の区域ごとにばらばらに増強するのではなく、全国を一つの系統として捉え、どの区間をどれだけ太くするかを10〜20年のスパンで描く。とりまとめるのは、全国の系統運用を束ねる中立機関のOCCTOで、2023年3月に最初の方針を公表した。

このマスタープランは、2050年までに約6〜7兆円規模の系統増強を見通す(うち北海道〜東北〜東京の連系線新設に約2.5〜3.4兆円)。重点には、長い距離を大きな電力で運ぶ海底直流送電と、既存の基幹送電線の大容量化が据えられた。なかでも目玉が、再エネの宝庫である北海道と、最大の需要地である首都圏を直接結ぶ新しいルートになる。

04本丸は北海道〜東京の海底直流

マスタープランの本丸にあたるのが、日本海ルートと呼ばれる北海道〜東北〜東京の海底直流送電になる。容量は200万kW(2GW)で、北海道南西部の後志(しりべし)を起点に、秋田を経由して新潟へ至る経路が検討されている。この200万kWを、2030年度(令和12年度)を目指して整備する計画になっている。

ここで「なぜ海底で、しかも直流なのか」を押さえておきたい。陸上の用地確保が難しい区間を避けて最短で結ぶには、海の底にケーブルを敷く海底送電が向く。そして長い距離を大きな電力で送るときは、ふだん家庭で使う交流より直流のほうが送電の損失が少なく、海底ケーブルとも相性がよい。この長距離・大容量の直流送電をHVDC(高圧直流送電)と呼ぶ。日本海ルートでは±500kV級・送電距離約800km規模の設備が想定されている。北海道の余る再エネを、損失を抑えて一気に首都圏へ運ぶための技術的な選択になる。

日本海ルート(北海道〜東北〜東京)の海底直流送電の経路 北海道南西部の後志を起点に、秋田を経由して新潟へ至る海底直流送電(200万kW)と、新潟から首都圏へ向かう陸上の送電を、左から右へ並べた模式図。北海道は再エネの供給地、首都圏は需要地にあたる。 日本海ルート ─ 再エネの供給地と需要地を直接結ぶ 北海道・後志 再エネの供給地 秋田 新潟 首都圏 最大の需要地 海底直流送電(HVDC)200万kW 陸上送電 200万kWを2030年度(令和12年度)を目指して整備する計画
FIG.01出所:OCCTO 広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)および広域系統整備委員会資料をもとに作成。経路・容量は計画段階の整理で、今後の検討で変わりうる。

05誰が・いくらで・いつ作るのか

計画は具体化に向けて動いているが、事業規模の大きさゆえに資金調達などの課題も抱える。日本海ルートの整備は、関係する区域の送電会社が共同で担う。要点を一覧にする。

論点 内容
担い手北海道電力ネットワーク / 東北電力ネットワーク / 東京電力パワーグリッド / 電源開発送変電ネットワークの4社が、2025年に有資格事業者として決定。区間ごとに役割を分担する。
規模日本海ルートの容量は200万kW(2GW、双極構成)。これを2030年度(令和12年度)を目指して整備。
概算費用日本海ルート単体で1.5〜1.8兆円程度との見方。マスタープラン全体は2050年までに約6〜7兆円規模(うち北海道〜東北〜東京の連系線新設に約2.5〜3.4兆円)。
工期概算で6〜10年程度。発電・蓄電に比べ、計画から運転開始まで長い時間がかかる。
進捗・課題事業規模の大きさによる資金調達の難しさから、実施案の提出期限は当初の2025年末から2026年末へ1年延期。まず技術検討報告書を先行して提出している。

規模も時間軸も、発電所1基や蓄電所1か所とはけたが違う。複数の送電会社が長い年月をかけて海をまたぐケーブルを敷く、社会インフラの大工事になる。発電や蓄電が比較的短い時間で立ち上がるのに対し、送電は計画から運転開始まで10年単位の時間がかかる点が、この層の特徴になる。

06費用は誰が負担し、何を生むのか

これだけの投資の費用は、最終的に電気を使う全国の需要家が、送電網の利用料にあたる託送料金を通じて広く負担する。特定の地域や事業者だけが払うのではなく、全国で薄く分け合う仕組みになっている。そのぶん、増強がもたらす便益が費用に見合うか(費用便益)と、誰がどこまで負担するか(受益者の範囲)が、計画づくりの中心的な論点になる。

送電網が太くなれば、北海道で余って捨てられていた再エネが首都圏へ流れ、出力制御が減り、発電(つくる)と蓄電(ためる)への投資も生きてくる。「ためる」と「はこぶ」は競合ではなく補完の関係にあり、蓄電が時間のズレを埋め、送電が距離のズレを埋める。担い手の側も、送電会社・ケーブルメーカー・海洋土木・電力機器といった工程ごとに別の企業が役割を持つ層の構造で、長い工期を分担して支える。

結論:再エネ主力化の最後の関門は「はこぶ」送電に移る

発電を増やし、蓄電でためる層が育っても、それを需要地へ運ぶ送電網が細ければ再エネ主力化は頭打ちになる。OCCTOの広域系統マスタープランは2050年までに約6〜7兆円の系統増強を見通し、その本丸が北海道〜東北〜東京を結ぶ200万kWの海底直流送電になる。これを2030年度を目指して整備し、4社の送電会社が長い工期をかけて担うが、事業規模の大きさから資金調達などの課題も残る。蓄電が時間のズレを、送電が距離のズレを埋める補完関係のなかで、再エネ主力化の次の関門は「つくる・ためる」から「はこぶ」へと移っていく。

本ノートの位置付け:本ノートは、Nagasawa & Associates が独立リサーチャーとして公開する一般的な情報提供・啓蒙目的の分析であり、特定の企業・銘柄・金融商品の購入・売却・保有を推奨するものではありません。投資助言・金融商品の販売勧誘・税務助言のいずれにも該当しません。記載の投資規模・容量・時期・費用・工期は公開情報をもとにした概数・推計を含み、参照元や前提によって幅があります。計画は流動的で、本稿の数値は執筆時点のものです。
主要出典
電力広域的運営推進機関(OCCTO)「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」(OCCTO。2023年3月29日公表。2050年までに約6〜7兆円〔うち北海道〜東北〜東京の連系線新設に約2.5〜3.4兆円〕の系統増強、海底直流送電・大容量送電線の重点整備)/OCCTO「北海道本州間連系設備(日本海ルート)に係る資料」(第101回広域系統整備委員会、2026年5月22日)/OCCTO「北海道本州間連系設備(日本海ルート)に係る広域系統整備計画 基本要件及び受益者の範囲」(2024年4月。容量200万kW〔双極・自励式〕を令和12年度〔2030年度〕目途に整備、有資格事業者4社は2025年決定)/実施案の提出期限が2026年末へ1年延期(資金調達難)との報道、日本海ルートの概算費用1.5〜1.8兆円・工期6〜10年に関する報道。規模・時期・費用・事業者は公開前に各一次資料で再確認する。