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Global Macro / Insights Notes

系統用蓄電池の申込6倍、国は「空押さえ」選別へ

系統用蓄電池の関門が、用地や建設から「系統につなげるか」へ移った。資源エネルギー庁の資料(2026年6月10日)によると、2024年度の系統連系の接続検討申込は14,276件で前年度の約2倍、うち系統用蓄電池は9,544件と前年度1,599件から約6倍に膨らんだ。なかには防災公園や既存の建物がある地点など、物理的に連系できない場所への申込=「空押さえ」が混じり、実需のある案件の検討を滞らせている。国は段階的な土地要件と申込件数の運用制御で「実需を前に出す」選別に動く。蓄電所ブームの全体像は蓄電所ブームは官製市場が生んでいるで整理した。本稿は、まず系統連系という仕組みを基礎から押さえたうえで、いま直面する系統接続のボトルネックと国の対応を概観する。

01そもそも「系統連系」とは何か

本題に入る前に、土台になる言葉を押さえておく。系統とは、発電所から家庭や工場まで電気を運ぶ送電網・配電網の全体を指す。電気には「つくった量と使う量が、瞬間ごとに一致していなければならない」という性質があり(これを同時同量という)、系統はこの需給を秒単位で合わせ続けて周波数を保つ、繊細なネットワークになっている。

その系統に、発電所や蓄電所を新しくつなぐことを系統連系という。蓄電所は、電気が余る時間に系統から充電し、足りない時間に系統へ放電する。充電も放電も系統につながって初めて成り立つので、連系できなければ、どれだけ立派な設備を建てても電気を売り買いできない。蓄電所にとって系統連系は、事業が動くかどうかを決める入口にあたる。

ここで送電線の容量に上限があることが効いてくる。送電線は太さが決まっていて、流せる電気の量に限りがある。道路の車線数に似ていて、つなぐ設備が増えすぎれば「渋滞」する。だから新しくつなぎたい事業者は、まず電力会社(送配電を担う会社)に接続検討の申込を出し、その地点に空き容量があるか、送電線の増強工事が要るか、工事費はいくらかを調べてもらう。この申込から契約・工事を経て、ようやく連系にたどり着く。次節からは、この入口の申込がいま処理能力を超えて殺到している実態を見ていく。

02関門は「建てられるか」から「つなげるか」へ移った

蓄電所の建設計画は、出力ベースで全国に急増してきた。ただし、その大半は系統への接続を検討する申込の段階にとどまる。計画が実際の事業として動くには、発電所や蓄電所を送電網につなぐ「系統連系」という関門を越える必要がある。土地を押さえ、資金を組み、蓄電システムを調達できても、つなぐ順番が回ってこなければ電気は売れない。

いま、その接続検討の申込が処理能力を超えて殺到している。ボトルネックが用地・建設から系統接続の順番待ちへと移り、誰が先につなげるかが事業の成否を左右する局面に入った。需給調整市場や長期脱炭素電源オークションという制度的な収益機会が投資を呼び込むほど、その出口にあたる系統の枠を奪い合う構図が強まっている。

03接続検討の申込が1年で約6倍に膨張した

規模は数字に表れている。資源エネルギー庁の資料によると、配電網事業者などが2024年度に受けた接続検討の申込は14,276件で、前年度の6,725件から約2倍に増えた。このうち系統用蓄電池が9,544件を占め、前年度の1,599件から約6倍へと一気に膨らんだ。申込の伸びの大半は蓄電池が押し上げた格好になる。

系統用蓄電池の接続検討申込件数の急増 系統用蓄電池の接続検討申込件数は、2023年度の1,599件から2024年度の9,544件へと約6倍に増えた。横棒で2か年を比較する。 系統用蓄電池の接続検討申込 ─ 1年で約6倍 2023年度 1,599件 2024年度 9,544件 全電源の接続検討申込も14,276件と前年度の約2倍に増え、その伸びの大半を蓄電池が占めた
FIG.01出所:資源エネルギー庁「系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系に向けた対応について」(2026年6月10日)。件数は接続検討の申込ベースで、計画段階を多く含む。

件数は接続検討の申込であって、稼働が確定した蓄電所の数ではない。とはいえ、検討事務には人手と系統の解析が要る。申込が6倍に膨らめば、配電網事業者の処理は詰まり、実際に建てたい案件の検討まで遅れる。量の急増そのものが、接続の順番待ちを長くする圧力になっている。

04「空押さえ」が有限の容量枠を塞ぐ

量の問題に質の問題が重なる。申込のなかには、防災公園や既存の建物がある場所など、物理的に蓄電所を置けない地点への申込が含まれる。先に枠だけを確保しておき、後から実現性を考える動きで、これが「空押さえ」と呼ばれる。系統の空き容量は地点ごとに有限で、机上の申込が枠を握ったままだと、実需のある案件が後ろに回される。

空押さえは、件数を水増しして検討事務を圧迫するだけでなく、容量配分そのものを歪める。つなぎたい事業者がつなげず、つなぐ気のない申込が枠を占める──この逆転が起きると、せっかくの制度的な収益機会も実需に届かない。国が選別の仕組みを急ぐ理由は、限られた系統容量を実現性の高い案件へ振り向け直すことにある。

05国は土地要件と件数制御で「実需」を選別する

資源エネルギー庁は、申込の入口を絞る運用対策から、構造的な接続拡大策まで段階的に打つ。土地まわりの要件は接続検討と契約申込みの2段階に分かれる点が要点になる。整理して一覧にする。

時期 対策 ねらい
2026年1月5日以降(受付分)接続検討の申込に、登記簿等の調査結果の提出を要件化(空押さえ対策)。土地確保そのものの証明ではない。実現性の乏しい地点の申込を入口で絞る
2026年8月1日事業者あたりの接続検討申込件数に運用上の制御を導入。大量申込による検討事務の集中を緩和し、処理の滞りを解く
2026年10月1日付(予定)契約申込みで土地の使用権原(土地確保)の提出を要件化。実際に建てられる案件だけを契約段階へ通す
システム改修後(5年超。一部で5〜7年との見方)蓄電池へのノンファーム型接続を導入。混雑時に充電を制御し、系統増強を待たずに連系できる枠を広げる

段階を分けた土地要件と件数の運用制御は、いずれも「実需を伴う案件を優先する」選別の仕組みにあたる。接続検討では登記簿等の調査結果の提出を求めて実現性の乏しい申込を入口で抑え、契約申込みでは土地の使用権原の提出を求めて実際に建てられる案件だけを通す。即効性のある運用対策として、当面は段階ごとの土地要件と件数制御が選別の軸になる。

06本命のノンファーム型接続は5年以上待ちになる

運用面の選別はあくまで当座の対応で、構造的な本命は別にあり、それがノンファーム型接続になる。従来の接続(ファーム型)は「いつでも約束した容量を流してよい」という確定枠で、全員に確定枠を約束しようとすれば送電線の増強が要る。これに対しノンファーム型接続は、系統が混雑する時間帯に蓄電池の充電を制御することを条件に、増強を待たずに連系を認める仕組みを指す。混雑する時間だけ充電を絞れば、送電線を増やさなくても多くの蓄電池をつなげる余地が生まれる。蓄電所はもともと充電のタイミングをずらせるため、この仕組みと相性がよい。

ただし、蓄電池へのノンファーム型接続を実装するには、系統側のシステム改修に5年超(一部に5〜7年程度との見方もある)を要すると見込まれている。短期の即効薬にはならず、それまでの間は土地要件と件数制御という運用面の選別で凌ぐ局面が続く。本命の制度が立ち上がるまでの数年が、接続の枠を巡る競争の山場になる。

07競争軸は「枠を取れる事業者」へ移る

ここまでを事業の視点でまとめ直すと、競争の軸が動いている。これまでの蓄電所ブームは、需給調整市場と長期脱炭素電源オークションという制度的な収益機会を背景にした早い者勝ちの色彩が濃かった。次に効いてくるのが、系統接続の枠を確実に取れるかという実務能力になる。用地の実在性 / 地点の系統余力 / 申込の通し方という3つを満たせる事業者だけが、計画を稼働に変えられる。

これは特定の一社で完結する話ではなく、工程ごとに別の担い手が役割を持つ層の構造になる。実在する用地を押さえる不動産、地点の系統余力を見極める電力・エンジニアリング、資金を出す商社・金融が、それぞれの強みを持ち寄って接続の枠を取りにいく。蓄電池そのものの優劣やセル価格とは別に、系統の枠を取り切る組成力が、これからの蓄電所事業の成否を分ける。

結論:蓄電所の競争はセル価格より系統の枠で決まる局面へ

蓄電所の計画は出力ベースで急増したが、その出口にあたる系統接続が次の関門になった。接続検討の申込は2024年度に系統用蓄電池だけで約6倍に膨らみ、実需を伴わない空押さえが有限の容量枠を塞ぐ。国は段階的な土地要件と申込件数の運用制御で実需を選別し、本命のノンファーム型接続は改修に5年超を要する。当面の競争軸は、安い電池を持つ事業者ではなく、用地・系統余力・申込の通し方を満たして系統の枠を取り切れる事業者へ移る。蓄電所の事業性は、いまや系統接続の組成力で読む段階に入った。

本ノートの位置付け:本ノートは、Nagasawa & Associates が独立リサーチャーとして公開する一般的な情報提供・啓蒙目的の分析であり、特定の企業・銘柄・金融商品の購入・売却・保有を推奨するものではありません。投資助言・金融商品の販売勧誘・税務助言のいずれにも該当しません。記載の申込件数・時期・制度スケジュール・改修期間は公開情報をもとにした概数・推計を含み、参照元や前提によって幅があります。制度・市況は流動的で、本稿の数値は執筆時点のものです。
主要出典
資源エネルギー庁「系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系に向けた対応について」(資源エネルギー庁、2026年6月10日。2024年度の接続検討申込14,276件〔前年度6,725件〕・うち系統用蓄電池9,544件〔前年度1,599件〕、接続検討での調査結果〔登記簿等〕の提出要件化〔2026年1月5日以降の受付分〕、申込件数の運用制御〔2026年8月1日運用開始。初出は2026年4月16日の同WG〕、契約申込みでの使用権原の提出要件化〔2026年10月1日付で関係規程改正・同日以降の受付分、予定〕、ノンファーム型接続のシステム改修期間〔5年以上〕)/資源エネルギー庁・電力広域的運営推進機関「系統用蓄電池の新規連系における課題と対応」(広域系統整備委員会、2026年2月)/ノンファーム型接続の所要期間を5〜7年程度とする業界報道。具体数値・時期は公開前に各一次資料で再確認する。