Global Macro Insights に戻る
Global Macro / Insights Notes

SMRはグローバル原発の主流になるか

AI・データセンターの電力需要が急増し、脱炭素の制約が続くなか、原子力への期待が世界で再燃している。なかでも注目を集めているのが、出力30万キロワット級以下の小型モジュール炉(SMR)だ。日経の報道では、米政権が日本の対米投資枠$550B(約88兆円)をSMR新増設に振り向ける構想が伝えられ、関連解説でも世界での新設計画が相次いでいることが整理されている。本稿は「SMRはグローバル原発の主流になるのか」という問いを軸に、市場の動き・追い風と障害・日本のエネルギー戦略・日本企業の関わり方を順に解いていく。

01なぜ今SMRなのか ─ 電力需要と脱炭素の交差点

原発回帰の流れは2020年代前半から始まっていたが、SMRへの注目を一段と引き上げたのはAI・データセンターの電力需要急増である。OpenAI、Google、Microsoft、Amazon、Metaらが進めるAI向けデータセンターの増設は、電力消費を桁違いに押し上げる。IEA特別報告書「Energy and AI」(2025年4月公表)では、データセンターの電力需要は2024年実績の約415TWhから2030年に約945TWhへ倍増する見通しが示された。

この需要を再エネだけで埋めるのは難しい。立地・天候・出力安定性の制約があり、24時間動き続けるデータセンターにはベースロード電源が必要となる。脱炭素を満たしつつ大量の安定電力を供給できる選択肢として、原子力が改めて視野に入った。

大型原発の新設には10年単位の時間と数兆円規模の投資が必要で、足元の電力需要急増には間に合わない。そこで現実的な選択肢として浮上したのが、工期が短く、データセンターや工場の近くに分散配置できるSMRである。米国のAmazon・Google・Oracleは2024年以降、SMR新興企業(X-energy、Kairos Power、NuScale系など)と長期電力購入契約や出資を相次いで発表した。Microsoftは既設原発(スリーマイル島/Crane)の再稼働契約を結んでおり、SMRそのものではないが原子力回帰の象徴例として位置づく。SMR注目の構造は「AI電力×脱炭素×工期短縮」の三拍子にある。

02大型原発とSMRの違い ─ 量産可能な「小さな原発」

主流化が論点になる理由は、SMRが大型原発と生産モデル自体が違う点にある。大型原発は1基あたり100万キロワット級で、案件ごとに設計・規制・サイト条件が異なる。圧力容器・蒸気発生器・大型鍛造部材などの基幹部材は1案件ごとに仕様を起こして作るオーダーメード型で、納期は数年単位、コストも案件ごとにブレる。

SMRは出力30万キロワット級以下で炉が小さいだけでなく、主要部品を工場で一体製造してから現場に据え付ける方式を採る。1基あたりの部品は小型になるが、案件数・基数が桁違いに増える前提で経済性が成り立つ。日経記事によると「複数のSMR向けの部材を1つの方法で製造できる」とされ、メーカーは同じ製法・同じ生産ラインで複数案件分を流せる。これが量産化のコスト低下を支える前提だ。

大型原発とSMR ─ 部材生産モデルの対比 大型原発のオーダーメード生産モデルとSMRの標準部材量産モデルを左右2列で対比する図。仕様・ロット・リードタイム・サプライヤー要件の違いを示す。 生産モデルの対比 ─ オーダーメード vs 標準量産 大型原発(既存) 仕様 案件ごとカスタム ロット 1基1セット 納期 数年単位 建設費 数兆円規模 事業性格 建設プロジェクト型ビジネス SMR(量産化フェーズ) 仕様 複数設計に共通 ロット 標準部材を量産 納期 短縮・量産効果 建設費 基数積上げで低減 事業性格 製造業型ビジネスへ転換
FIG.01大型原発は1案件ごとに作り込む「建設プロジェクト」、SMRは複数の案件で同じ部材を流す「製造業」。この転換が成立するかどうかが、SMRが主流になれるかの分水嶺になる。

つまりSMRの主流化は、原発を建設プロジェクト型ビジネスから製造業型ビジネスへ移すという、業態転換を伴う変化である。これが本当に成立するかどうかが、グローバル主流化の鍵になる。

03グローバル市場の動き ─ どこまで広がっているか

世界各地でSMRの建設計画と協業が動き出している。地域別の主な動きをまとめると次のようになる。

地域 主要案件・主要メーカー 進捗の状況
米国GE Vernova・日立(沸騰水型)、米NuScale、米Holtec米$550B枠の振り向け構想、AmazonやGoogle等によるSMR電力購入契約・出資が相次ぐ。
カナダオンタリオ州DarlingtonにGE Vernova・日立のBWRX-300(30万kW級×4基)を採用西側初の商用SMRサイト、初号機の運転開始は2030年目標。
英国Rolls-Royce SMR英政府の支援で国内導入を計画。設計認証が進行中。
東欧・ポーランドSynthos・Skoda系などとの協業米国系設計の導入計画が複数進む。
東南アジアインドネシア・フィリピン等離島電源・産業用電源としての導入検討が進む。
中東サウジ・UAE構想長期エネルギー戦略の一部として検討。
日本三菱重工 小型軽水炉SMR(30万kW級、革新軽水炉SRZ-1200とは別ライン)運転開始は2030年代後半〜2040年代の見通し(後述)。

注目すべきは、設計の発信地が米国・カナダ・英国・日本に集中している点である。中国・ロシアも独自設計を進めるが、西側市場での採用は限定的だ。設計を握る企業の数は限られ、そのほとんどに何らかの形で日本企業が関わっている(後述)。

04主流化の追い風と、阻むハードル

SMRが本当にグローバル主流になるかは、追い風が継続するかと、ハードルを越えられるかにかかる。

追い風(主流化を支える)

ハードル(主流化を阻む)

整理すると、SMRの主流化は「絶対に来る」でも「絶対に来ない」でもなく、追い風が続けば段階的に主流化する性格の話である。完全な世界共通設計は不要で、汎用部品(配管・ポンプ・制御系・建屋資材)の共通化が進めば量産効果は出る。一方、圧力容器・蒸気発生器のような炉型直結部品は設計ファミリーごとにカスタムが残る。

05日本のエネルギー戦略の中での位置

日本のエネルギー基本計画はSMRをどう位置づけているか。

資源エネルギー庁の第7次エネルギー基本計画(2025年2月18日閣議決定)では、2040年度の電源構成として原子力比率を2割程度(20%程度)とする方針が示された。再エネ4〜5割と並ぶ脱炭素電源の主力と位置づけられ、第6次計画(2021年)にあった「可能な限り原発依存度を低減する」表現は削除された。既設原発の最大限活用と次世代革新炉の研究開発・建設を両輪で進める書きぶりだ。

同日に閣議決定されたGX2040ビジョンは、AI・データセンター・半導体工場の集積で電力需要が長期的に増加に転じる前提を明示した。脱炭素電源のうち再エネは立地・天候制約があり、原子力はベースロード電源として一定の拡張余地を残す建付けである。

経産省「次世代革新炉ワーキンググループ」は、革新軽水炉・SMR・高速炉・高温ガス炉・核融合の5つの技術を並行して進める方針を示している。このうち国内で先行するのは三菱重工が開発する革新軽水炉(出力120万キロワット級、2030年代半ばに運転開始予定)で、出力規模は大型炉に近い。SMR(出力30万キロワット級以下)は2030年代後半から2040年代に運転開始の見通しで、革新軽水炉より少し遅れて続く。

日本の戦略は明快である。原子力2割を維持するための主役は既設原発の再稼働と革新軽水炉の新増設で、SMRはその後ろに控える。国内のSMR建設基数は限定的で、国内市場だけ見るとSMRは「主流」というより「次世代電源の一つ」に位置づけられる。

06日本企業の関わり方 ─ 国内事業と海外部材供給

日本のSMR建設基数が限定的なら、日本企業はSMRに関与する意味があるのか。答えは、海外SMR市場への部材供給国内の原発事業の二刀流で取りに行ける、という構造にある。

世界のSMR設計者の多くは、何らかの形で日本企業を巻き込んでいる。GE Vernovaは日立と共同で沸騰水型SMRを設計し、北米・東欧・アジアに展開する。米NuScaleには日揮ホールディングスとIHIが出資し、設計の支援と建設関与の足場を持つ。米Holtecには三菱電機が2022年3月にSMR-160向け計装制御システムの設計契約を締結し、現在はSMR-300向けマルチユニット中央監視システムを開発している。素材・鍛造・部品の工程でも日本企業が世界の主要供給拠点として機能している。

部材カテゴリ 主な日本企業 標準化対応の論点
原子炉圧力容器の鍛造素材日本製鋼所大型炉時代に培った高品質生産能力。SMRでは径が小さくなる分、同径の繰り返し生産がしやすい。量産ラインへ組み替えるかが論点。
原子炉用の鋼材日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所米国規格を取得済みの鋼種を複数のSMRに横展開しやすい。量産規模次第で歩留まり改善の余地が大きい。
蒸気発生器の伝熱管住友金属系(特殊鋼)、神戸製鋼所同じ径・材質を複数の設計が採用すれば量産メリットが効きやすい。
ポンプ・配管・弁荏原製作所、栗本鐵工所、クボタなど原子力向けの規格内であれば汎用設計が可能。標準化が早く進みやすい領域。
計装制御(センサー・制御系)三菱電機(米Holtec「SMR-160/SMR-300」で具体実績)、東芝・日立(国内軽水炉での実績ベース)デジタル制御系は規制適合に時間がかかるが、一度認証されれば複数の設計に横展開しやすい。
燃料製造原子燃料工業、三菱原子燃料、GNF-J軽水炉系SMR向けの燃料は既存ラインを拡張する形で対応可能。
設計・組立日立(GE Vernovaと共同)、三菱重工、IHI、東芝エネルギーシステムズ設計会社に近い位置で量産化を主導する工程。複数案件で部材共通化を提案できる立場でもある。

この供給網は特定の1〜2社で代表できる構造ではない。設計・組立から素材・鍛造まで複数の工程が分業として重なる厚みが、海外SMR量産化のフェーズでは「同じ部材を複数のSMRに流せる供給網」として機能する余地がある。

日本企業が取れる範囲は2つに分かれる。国内の原発事業(革新軽水炉と国産SMR、基数は限られるが収益は国内に残る)と、海外SMR向けの部材供給(量産案件の積み上げで薄利多売)。2つは別物の事業ではなく、国内案件で磨いた量産ラインが海外受注の競争力になり、海外で確立した標準仕様が国内SMRのコスト低減に効く、互いに支え合う関係にある。

07問いに戻る ─ SMRはグローバル主流になるか

本稿の問いに戻ろう。SMRはグローバル原発の主流になるか。

答えは「主流の一翼を担うが、大型炉を完全に置き換える主役ではない」に落ち着く可能性が高い。大型炉とSMRは性格の異なる電源で、用途も異なる ─ 大型炉は大需要地のベース供給、SMRは分散立地・データセンター併設・離島系統など。両者は補完関係にあり、SMRが原発開発の有力な選択肢として確立する一方で、大型炉が消えるわけではない。

主流化の進度は、上で見た4つのハードル(独自仕様の収束・初期コスト低減・国際規格調整・需要側のコミット)の越え方にかかる。現時点では追い風(AI電力、脱炭素、米政策支援、認証進展)の方が強く、段階的な主流化シナリオが現実味を帯びている。

この変化のなかで日本は、国内では大型炉と並ぶ次世代電源の一つとしてSMRを位置づけ、海外では設計から部材まで広範に関与する立場にある。世界のSMR設計者の多くに日本企業が組み込まれている事実は、原発開発の業態転換のなかで日本サプライチェーンが取り直しを問われる立場であることを示している。

結論:SMRは原発の『主流の一翼』、日本は設計から部材まで広く関わる

SMRは大型原発を完全に置き換えるわけではないが、AI電力需要と脱炭素を背景に、原発開発の主流の一翼を担う電源として段階的に立ち上がっていく公算が大きい。日本は第7次エネルギー基本計画で原子力2割を掲げ、国内では大型炉に近い革新軽水炉を先行させつつ、SMRを次世代電源の一つに位置づけた。世界市場ではGE Vernovaとの共同設計、NuScaleへの出資、素材・鍛造・部品の供給と、設計から部材まで広範に関わる立場にある。原発が「建設プロジェクト」から「製造業」に組み変わるなかで、日本企業が国内事業と海外供給の二刀流をどう設計するかが、その取り分を決める。

本ノートの位置付け:本ノートは、Nagasawa & Associates が独立リサーチャーとして公開する一般的な情報提供・啓蒙目的の分析であり、特定の企業・銘柄・金融商品の購入・売却・保有を推奨するものではありません。投資助言・金融商品の販売勧誘・税務助言のいずれにも該当しません。記載の数値・シェア・将来予測は公開情報をもとにした概数・推計を含み、参照元によって幅があります。投資判断はご自身の責任と判断で、必要に応じて有資格の専門家にご相談のうえ行ってください。
主要出典
日本経済新聞「米の発電史、始まりはエジソンの石炭火力 「AI特需」で小型原発に期待」(日経電子版、2026年6月12日)/日本経済新聞「きょうのことば/小型モジュール炉とは 低コストで建設、AI需要で注目」(日経電子版、2026年6月12日)/資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画」(本文PDF、2025年2月18日閣議決定)/経済産業省「第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました」(プレスリリース、2025年2月18日)/内閣官房・経産省「GX2040ビジョン」(2025年2月18日閣議決定)/経済産業省「次世代革新炉ワーキンググループ」資料/IEA「Energy and AI」(2025年4月公表、DC電力需要見通し)/IAEA Advanced Reactors Information System (ARIS)/World Nuclear News/GE Vernova Hitachi Nuclear Energy・NuScale Power・Holtec International・Rolls-Royce SMR の各社IR/日立製作所・三菱重工業・IHI・日揮ホールディングス・東芝エネルギーシステムズ の各社IR/日本製鋼所 IR/原子力産業協会(JAIF)レポート。