山形内陸都市の子育て支援戦略
前稿の山形の高齢化は量のピークを越え財政は子育てへ動くで、山形県の市町村財政が高齢者向けから子育てへ重心を移してきたことを見た。その最前線に立つのが、山形市・東根市など内陸の都市が20年かけて整えてきた大型屋内子育て施設にあたる。各市は、子育て世帯を集めるための明確な戦略として、2005年から自前で施設を整えてきた。山形市のコパルは総事業費のほとんどを市の自主財源でまかない、東根市は「子育てするなら東根市」を掲げて県内で唯一人口を増やした。施設の年表・整備費・財政・対仙台の密度から、山形内陸が子育て支援を軸に人を集めてきた20年を描く。
01子育て支援を戦略に据える山形内陸
山形県の内陸の都市は、雪と真夏の暑さで屋外遊びが利きにくい。そのぶん、天候に左右されない大型の屋内子育て施設が早くから整い、いまでは子育て世帯にとっての大きな魅力になっている。東根市のさくらんぼタントクルセンター、山形市のべにっこひろばやコパル、天童市のげんキッズ――いずれも保育や子育て支援の機能に、大きな屋内遊び場を組み合わせた複合施設にあたる。
これらの施設は、思いつきで建てられたのではなく、各市が子育て世帯を集めるために掲げた明確な戦略の産物にあたる。前稿では、県内で子育て向けの支出が高齢者向けを上回って伸びたことを見た。その最前線が、この20年の施設整備にある。整備の年表・各市の計画・決算・仙台との比較から、山形内陸がなぜ、どのように子育てへ賭けてきたのかを順にたどる。
02起点は2005年 ─ 20年続く子育て投資
山形内陸の主な屋内子育て施設は、東根市のタントクルセンターが2005年と早く、以後、東根のあそびあランド(2013年)、山形市のべにっこひろば(2014年)、天童市のげんキッズ(2015年)、上山市のめんごりあ(2018年)、山形市のコパル(2022年)、寒河江市のCLAAPIN(2024年)と続いた。一方、前稿で確認した老人福祉費の頭打ちは2015年度以降で、主要な施設の多くは、それより前に整備が始まっている。
起点のタントクルセンターは2005年で、前稿でみた老人福祉費の頭打ち(2015年度)より10年早い。子育て施設への投資は、高齢者向けが一段落するのを待って始まったのではなく、はるかに早くから、独立した政策として走ってきた。20年という長さそのものが、これが一時の思いつきでなく、腰を据えた戦略だったことを示す。
03各市が明文で掲げる ─ 「子育てするなら東根市」
もっとも明快なのが東根市で、土田市政のもとで「子育てするなら東根市」を掲げ、タントクルセンターをその象徴として整備した。内閣府の「選択する未来」でも、人口指標と経済指標がともに県内で最も高い市として事例に取り上げられ、合計特殊出生率は県内の市で最高水準にある。子育て世帯を呼び込む政策の結果として、若い世代と生産年齢人口を保っている。
天童市は、総合計画のなかで土地区画整理による宅地供給・商業の核・屋内遊戯施設・人口目標を一体のパッケージとして描いた。屋内遊び場げんキッズの利用者の多くが市外から訪れており、施設が市の枠を越えて人を集めていることがうかがえる。山形市は、べにっこひろばが想定を上回る来場を集めたことを受け、南部の第2拠点としてコパルを位置づけ、その狙いに「若い家族世帯の移住・定住の促進」や「仙台市などからの来訪による経済効果」を市自身が明記している。
決め手は財源にある。山形市のコパルは、総事業費約38.6億円のうち国の補助が約870万円(0.2%)にとどまり、残りは市の自主財源とPFIでまかなった。国の補助メニューに引っ張られて建てた施設ではなく、市が自らの判断でリスクを取って張った投資にあたる。「高齢者向けが一巡したので子育てへ」という自治体側の公式説明や報道は、確認した限り見あたらない。動機として語られているのは、一貫して子育て世帯の獲得にある。
主な施設の整備費と規模を並べると、その姿がはっきりする。国の交付金に大きく頼ったのは寒河江のCLAAPIN(補助率2分の1)くらいで、多くは市が自前で建てている。
| 施設(市) | 開館 | 延床 (㎡) | 総事業費 | 財源・整備手法 |
|---|---|---|---|---|
| タントクルセンター(東根) | 2005 | 8,573※ | 不明 | 保健福祉との複合施設 |
| あそびあランド(東根) | 2013 | 屋外中心 | 5.8億円 | ― |
| べにっこひろば(山形) | 2014 | 2,677 | 約10億円概算 | 木造大断面 |
| げんキッズ(天童) | 2015 | 2,226 | 不明 | 公設・独立館 |
| めんごりあ(上山) | 2018 | ― | 約6.2億円※ | 複合施設の改装分 |
| コパル(山形) | 2022 | 3,176 | 38.6億円 | 国庫0.2%・自主財源+PFI |
| CLAAPIN(寒河江) | 2024 | 約2,000 | 11.5億円 | 拠点整備交付金1/2・DBO |
| 西公園屋内遊び場(仙台) | 2029予定 | 約3,700 | 約65億円 | 財源・手法は未公表 |
出所:各市の公表資料・議会資料・内閣府地域再生計画・報道による。コパルは知多市議会視察報告(2022年)、CLAAPINは内閣府地域再生計画、仙台は河北新報・仙台市による。延床は建物全体の面積で、屋内遊び場単独の面積ではない。※タントクルは保健福祉との複合施設、めんごりあは二日町プラザ全体の改装費で施設単独額ではない。仙台の65億円は本体約35億円+連絡橋・駐車場約30億円。
04財政の姿 ─ 経常はむしろ厚い、差は「単費の施設投資」
会計の構造をみても、この投資が各市の能動的な選択だったことがわかる。2000年の介護保険制度で、高齢者介護の給付や施設運営は市の一般会計から介護保険特別会計へ移り、特別養護老人ホーム等の整備補助は主に県の基金が担うようになった。市の一般会計に映る老人福祉費は、施設整備の主役ではない。東根市の最近の予算をみても、一般会計の児童福祉費が老人福祉費の20倍を超える規模にあり、高齢者向けの支出とは切り離して、子育てに正面から予算を割いている。
子ども一人あたりの児童福祉費を並べても、山形内陸が仙台に見劣りするわけではない。2022年度の決算では、山形市65.2万円・天童市70.2万円・東根市64.0万円と、いずれも仙台市の62.3万円を上回り、仙台の周辺にあたる名取市(52.9万円)・富谷市(47.5万円)を大きく引き離す。日常の子育て予算は、むしろ山形内陸のほうが手厚い。
つまり、経常的な児童福祉費でみると仙台圏と山形内陸に大きな差はなく、むしろ山形が厚い。差がついたのは、日常の福祉費ではなく、大型の屋内施設という一度きりの単費投資の部分にある。そしてここで前稿の発見が効いてくる。老人福祉費が頭打ちで、経常収支比率も悪化していない――この財政の健全さが、大型施設に自前のお金を投じても財政が痛まない許容条件を用意した。原資を直接生んだのではなく、思い切った投資を許した、という関係にあたる。
05なぜ子育てに賭けるのか ─ 縮小のなかの生存戦略
では、なぜ山形内陸の都市は、数ある政策のなかで子育て支援に賭けるのか。前稿でみたとおり県全体が縮むなかで、子育て世帯を集めることは、都市が生き残るための数少ない攻めの一手にあたる。子育て世帯は、いまの子どもだけでなく、これから働いて税を納める世代を連れてくる。高齢者向けの支出が守りの性格を帯びるのに対し、子育てへの投資は将来の人口と税源を先に確保する意味を持つ。その攻め手を後押しするのが、山形内陸に固有の三つの条件にあたる。
ひとつは気候で、冬の雪と夏の猛暑で屋外遊びが利きにくく、天候に左右されない屋内施設への需要がもともと強い。ふたつめは世帯の姿で、共働き率と三世代同居率がともに全国でも高い水準にあり、平日の日中も含めて子どもの居場所を求める力が働く。子育て施設は、余暇の設備というより、共働き社会の生活インフラに近い性格を帯びる。
三つめが内陸都市間の競争にあたる。山形市・天童市・東根市・寒河江市・上山市は互いに近く、子育て世帯の奪い合いが起きやすい。東根市の人口増は、その競争の帰結として読める。前稿でみたとおり、東根は県内で唯一、20年で人口を増やした市で、その転入の多くは尾花沢市・村山市など、高齢者数が既にピークを越えた周縁部(前稿のA型)からの県内移動にあたる。中央が周縁から子育て世帯を吸い上げるという中央・周縁の構造が、施設をめぐる競争としてここに現れている。
06対仙台 ─ 政令市は保育に追われ、遊び場は周辺都市の武器になる
この構図は、隣の仙台市と比べるとより立体的になる。人口100万を超える仙台市には、公設の大型屋内遊び場がながく存在しなかった。あるのは児童館やのびすくといった小規模分散型の施設で、財政の優先順位は待機児童の解消に向いていた。仙台市は2024年に待機児童ゼロを達成しており、限られた資源をまず保育の量の確保に振り向けてきたことがうかがえる。大型の屋内遊び場については、市民が近隣県の施設まで足を延ばす状況が報じられていた。
仙台居住者の感覚では、仙台市は雨や雪の日に子どもをのびのび遊ばせられる大きな屋内施設が身近に少ない。休日に観光を兼ねて山形の施設まで足を延ばす人も多く、そのたびに、天候に負けない遊び場が地域の確かな魅力になりうることを、利用者の側から実感する。山形市が狙いに掲げた「仙台市などからの来訪による経済効果」とは、こうした一つひとつの行き来の積み重ねにあたる。
仙台市も動き始めてはいる。西公園に延べ床約3,700㎡・事業費およそ65億円の大型屋内遊び場を整備し、市内の小学生以下は無料とする方針で、2029年度の開館を目指す。だが山形内陸がタントクルセンターを開いた2005年から数えると、仙台本体の整備はおよそ20年遅い。しかも名取市・利府町・富谷市といった仙台圏の周辺都市のほうが、仙台本体より先に屋内施設を整えている。政令市は保育需要の消化に追われ、屋内遊び場のような投資はむしろ周辺都市の差別化の武器になる――山形内陸と仙台の対比は、その一般的な構図をよく映している。両者の差は、財政余力の差というより、何を優先し、いつ動いたかの差にあった。
差は密度でみると一目でわかる。子ども千人あたりの屋内遊戯施設の延床面積をとると、寒河江市397㎡・天童市276㎡・山形市201㎡に対し、仙台市は2029年度に予定する西公園の施設を数えても29㎡にとどまる。山形内陸は、仙台の7〜14倍の密度で屋内の遊び場を備えている。人口の大きい政令市ほど、一つの大型施設では子ども数を割り切れない、という構造もここに効いている。
先行の利は永続しない。仙台が2029年度に大型施設を開き、周辺都市も追随すれば、山形内陸の相対優位は薄れていく。次の局面で問われるのは、施設という「箱」の数ではなく、共働き社会の生活インフラとして運営と中身をどう更新し続けるかにある。県全体が縮むなかで、子育て世帯の奪い合いを超えて、圏域として子育て機能をどう分担するか――そこまで設計できるかどうかが、山形内陸の先行投資を一過性で終わらせないための分かれ目になる。
結論:山形内陸は子育て支援を戦略に子育て世帯を集めてきた
山形内陸の大型屋内子育て施設は、子育て世帯を集めるために各市が20年かけて張ってきた先行投資にあたる。起点はタントクルセンターの2005年で、山形市のコパルは総事業費38.6億円のほとんどを自主財源とPFIでまかなった。雪と猛暑の気候、共働きと三世代同居の世帯構造、近接する内陸都市どうしの競争が、子育て支援を都市の生き残り策に押し上げている。前稿でみた高齢化の量的ピークアウトと財政の健全さは、その投資を支える土台として効いている。子ども千人あたりの屋内遊び場面積は仙台の7〜14倍に達し、政令市が保育に追われる間に、山形内陸は子育て支援を明確な差別化の武器にしてきた。次に問われるのは箱の数ではなく、運営の更新と圏域での機能分担にある。