山形の人口は牽引役のないまま全県で縮む
県の姿は、平均ではなく「どこが増えてどこが減るか」で決まる。山形県の35市町村を1990年から2020年の人口増減率で並べると、総務省の統計ダッシュボードで追える国勢調査ベースで、増えたのは東根市・天童市の2市だけにとどまる。県庁所在地の山形市すら−0.8%の横ばいで、仙台市が約18万人を積み増した宮城県とは対照的に、人を吸い寄せる中心を欠く。県全体では30年で−15.1%まで縮み、最上地域は3割超を失った。以前の宮城の人口は仙台圏へ集まり沿岸から抜けるで見た一極集中とは異なる、牽引役なき全県縮小という山形の構造を、各都市の人口増減を棒グラフで比較しながら読み解く。
01人口増減で並べ替える山形 ─ 増えたのは2市だけ
地域を読む出発点は、市町村を人口増減率で一列に並べることにある。1990年から2020年の30年で人口がどれだけ増えたか減ったかを市町村ごとに取ると、山形は宮城のように増加側と減少側へ二極化するのではなく、ほぼすべてが減少側に張り出す。人口が増えたのは35市町村のうち東根市(+11.5%)と天童市(+8.4%)の2つだけで、いずれも山形市に隣接する内陸中央の都市にあたる。残る33市町村は横ばいから減少で、県境の山あいと日本海側の沿岸部に広く分布する。
宮城が「増える仙台圏」と「減る周辺」に割れていたのに対し、山形は県全体が沈んでいく。35市町村の人口を合算した県計は、1990年の1,258,390人から2020年の1,068,027人へ、30年で−15.1%減った。宮城県が同じ期間にほぼ横ばい(+2.4%)だったことと比べると、山形の縮小は県全体を巻き込む点で性格が違う。以下、増えた2市を含む中心部と、減少の激しい周辺部を地域ごとに分けて見ていく。
02牽引する中心がない ─ 県庁所在地すら横ばい
宮城の仙台市が周辺の人口を吸い上げる中心だったのに対し、山形には同じ役割を担う都市がない。主要都市の人口を1990年と2020年で並べると、県庁所在地の山形市は249,487人から247,590人へ−0.8%の横ばいで、増えても減ってもいない。県第2・第3の都市である鶴岡市(−18.9%)・酒田市(−18.4%)はいずれも2割近く減り、米沢市も−14.3%と縮んだ。人口が増えたのは、山形市に近く工業団地や山形空港を抱える東根市・天童市の中規模2市に限られる。
この違いは、県内の人の流れの向きを変える。宮城では周辺の人口が仙台圏という一点へ集まったが、山形では県内に受け皿となる大都市がないため、若年層の多くが仙台圏や首都圏など県外へ出る。山形市が横ばいにとどまるのは、県内からの流入で県外への流出をかろうじて埋め合わせているためで、周辺を膨らませるほどの吸引力は持たない。増える中心を欠いたまま、県全体が縮小していく構図になる。
034つの圏域 ─ 最上の急減と村山の粘り
縮小の速さは、県内でも地域によって大きく異なる。山形県は地形と歴史から、村山・最上・置賜・庄内の4つの圏域に分かれる。圏域ごとに人口を合算すると、山形市を含む内陸中央の村山圏が−7.4%と最も粘る一方、県北の山あいにある最上圏は−30.6%と、30年で3割を超えて減った。米沢を中心とする置賜圏(−20.3%)、鶴岡・酒田を抱える庄内圏(−19.8%)はその中間にある。
村山圏が相対的に粘るのは、横ばいの山形市と、増加した東根・天童が圏内にそろうためにあたる。反対に最上圏は、中心都市の新庄市(−20.2%)を除く7市町村がいずれも3割半ば〜4割超の減少で、圏域全体を−30.6%まで押し下げる。同じ山形県でも、村山圏は「緩やかな縮小」、最上圏は「急速な消失」に近く、県を一括りにした平均が地域の実像を覆い隠す。宮城で見た「増える中心と減る周辺」の対比は、山形では「粘る中央と崩れる周縁」という圏域間の濃淡として現れる。
04人口が減っても1人当たりは上がる ─ 分母効果と小国町
人口の増減と所得の高低は、山形でも強く結びついている。1990年から2020年の人口増減率と、2023年の納税者1人当たり課税対象所得の相関係数は+0.65で、宮城(+0.63)とほぼ同じ正の相関を示す。人口が粘った村山圏ほど所得が高く、2023年の1人当たり所得は山形市(334.1万円)が突出し、人口が増えた天童市・東根市も上位に並ぶ。ただし山形市の課税対象所得シェアは1990年の24.4%から2023年の27.4%へと緩やかにしか上がっておらず、県所得の過半を握る仙台市(55.1%)のような一極集中には至らない。中心が弱いぶん、所得も一点には集まらない。
ここで、人口が減った地域ほど注意して読む必要がある。人口を大きく失った市町村でも、1人当たり所得はむしろ上向いている。1人当たり所得は総額を納税者数で割った値のため、分母である納税者数が減ると、総額が伸びなくても水準が上がって見える。この分母効果は、山形では減少地域に広く現れる。
| 市町村(人口増減) | 2010 | 2015 | 2020 | 2023 |
|---|---|---|---|---|
| 小国町(−37%) | 224.9 | 239.3 | 275.5 | 296.2 |
| 尾花沢市(−37%) | 234.3 | 243.8 | 259.1 | 277.1 |
| 金山町(−36%) | 219.3 | 231.8 | 238.6 | 257.0 |
| 戸沢村(−42%) | 222.5 | 212.1 | 227.0 | 251.4 |
| 鶴岡市(−19%) | 243.2 | 251.2 | 264.1 | 282.0 |
単位:納税者1人当たり課税対象所得(万円)。
とりわけ小国町は、人口を30年で37%失いながら、2023年の1人当たり所得は296.2万円と県内2位に立つ。金属・化学の工業と水力発電を抱え、そこで働く人の所得が、小さくなった納税者数に相対的に大きく効くためにあたる。宮城の女川町と同じ構図で、特定の産業が小さな人口を支えるときに現れる。だがこれを「豊かになった」と読むと実像を取り違える。総額でみれば、人口を失った市町村の経済規模はむしろ縮んでいる。棒グラフの人口減と、上向く1人当たり所得は矛盾ではなく、分母の縮小という同じ現象の裏表にあたる。
05含意 ─ 弱い中心の県で縮小をどう設計するか
宮城と山形を並べると、同じ東北でも縮小の型が違う。宮城は仙台という強い中心が周辺の人口と所得を吸い上げる一極集中型で、増える場所と減る場所がはっきり分かれた。山形は吸い上げる中心を欠いたまま県全体が沈む全県縮小型で、増えるのは2市だけ、県庁所在地すら横ばいにとどまる。人口が集まる先が県内になく県外へ流れるため、縮小は特定の周辺部ではなく県全体に及ぶ。
経済活動の側から見ると、山形では消費と労働の市場が県内のどこか一点へ集約されるのではなく、全県的に薄くなっていく。地域を単位に事業や投資を設計するとき、要になるのは、宮城のように「集中する中心を押さえる」発想が山形には効きにくい点にある。むしろ、村山圏の相対的な粘りと、最上圏のような急減地域とを分けて捉え、縮小を前提に規模を抑えた設計や、複数の中規模都市(山形・鶴岡・酒田・米沢)を結ぶ機能分担で立地の意味を保つ発想が現実的な選択肢になる。1人当たり所得が減少地域でも上向いて見える分母効果を、市場の拡大と読み替えないことも、山形では宮城以上に重い。増える都市と減る都市、粘る圏域と崩れる圏域を分けて見ることが、山形の地域経済を読む出発点になる。
結論:山形は牽引する中心を欠いたまま全県で縮む
山形の35市町村を人口増減率で並べると、増えたのは東根市・天童市の2市だけで、県庁所在地の山形市すら−0.8%の横ばいにとどまる。仙台という強い中心が周辺を吸い上げる宮城とは対照的に、山形は吸い上げる中心を欠いたまま県全体が−15.1%縮み、最上圏は3割超を失った。人口増減率と所得の相関は+0.65、山形市の所得シェアは24.4%から27.4%へと緩やかにしか集中せず、減少地域では分母効果で1人当たり所得だけが上向いて見える。地域経済を読む要は、集中する中心を探すのではなく、粘る圏域と崩れる圏域を分け、規模を示す総額と水準を示す1人当たりを分けて扱うことにある。