山形の高齢化は量のピークを越え財政は子育てへ動く
高齢化が進む地方は、過疎が深まり、やがて財政も行き詰まる――そう考える人は多い。だが山形県35市町村の国勢調査と決算を20年ぶん並べると、話はそれほど単純ではない。高齢者を支える負担が重くなった主な原因は、高齢者が増えたことよりも、支える働き手が急速に減ったことにある。しかも高齢者の数そのものが、すでに12市町村でピークを越えた。決算を見ると、高齢者向けの福祉費は頭打ちになる一方、子育て向けの費用はこの16年で倍増している。以前の山形の人口は牽引役のないまま全県で縮むで見た全県縮小の先で、「社会保障が地方の財政を圧迫し続ける」という見方が、実際のデータにどこまで当てはまるのかを確かめる。
01高齢化=財政難という予測を、どこまで信じるか
地方の将来像は、たいてい一本の線で語られる。高齢化が進み、若年層が流出し、過疎が深まり、社会保障費が膨らんで財政が立ち行かなくなる、という流れで語られる。山形県は、その典型例として挙げられやすい。高齢化率は全国でも高い水準で、県全体の人口は30年で15%縮み、県庁所在地の山形市すら人口を増やせていない。
ただ、この一本の線は、二つのことを単純に決めつけている。「負担が重くなるのは高齢者が増えるから」という思い込みと、「高齢者はこれからも増え続ける」という思い込み。どちらも直感には合うが、山形の20年の実データはそのまま裏づけない。むしろ、高齢者の数はすでに頂点を越えた地域が広がり、介護・医療の施設整備も一巡しつつある。だとすれば、高齢者向けの追加投資が要らなくなった分だけ、若い世代や子育てへお金を回す余地が生まれているのではないか。この問いを、国勢調査(人口の中身)と市町村の決算(社会保障の使いみち)を突き合わせて確かめていく。
02負担増の正体 ─ 増えたのは高齢者でなく、消えたのは働き手
分析に入る前に、山形の35市町村を高齢化の進み方で整理しておく。高齢者数が既にピークを越えた量ピークアウト型(A、12市町村)、高齢者数がなお増える高齢化進行・移行型(B、20市町村)、そして高齢者数はこれからピークを迎えるが税基盤が相対的に厚い都市・基盤厚型(C、山形市・天童市・東根市の3市)の3つに分かれる。地図に落とすと、C型は山形市を中心とする内陸中央にまとまり、A型は県境の山あいと日本海側の周縁へ広がる。高齢化の段階は、県内の中央と周縁という地理と重なっている。以下、この3類型を軸に負担と財政を読んでいく。
まず「負担」を測る物差しを置く。老年従属指数は、生産年齢人口(15〜64歳)100人が高齢者(65歳以上)を何人支えるかを示す指標で、値が大きいほど現役世代の負担が重い。山形県計では、この指数が2000年の37から2020年の62へ跳ね上がった。数字だけ見れば、高齢者の重みが1.7倍になった計算になる。
だが中身を分けると、話は反転する。この20年で高齢者人口は28.6万人から36.1万人へ26%あまり増えたのに対し、支える側の生産年齢人口は77.2万人から58.7万人へ、18.5万人・24%も失われた。老年従属指数を押し上げた主因は、分子である高齢者が増えたことではなく、分母である働き手が激減したことにある。負担が重くなった一番の理由は、高齢者が増えたことより、支える人が減ったことにある。
この関係は、市町村を横に並べるとさらにはっきりする。2020年の高齢化率と、2000年からの働き手の増減率を35市町村でとると、両者はきれいな右肩下がりの一直線に並ぶ(連動の強さを示す相関係数は−0.92で、ほぼ完全に連動している)。高齢化率が45%を超える西川町は働き手を20年で45%失い、高齢化率が28%にとどまる東根市は3%しか減っていない。つまり高齢化と働き手の減少は、同じ現象の裏と表になっている。
03高齢者の数は、多くの町で既にピークを越えた
もうひとつの前提、「高齢者は増え続ける」も、山形では崩れている。65歳以上人口が5年ごとの国勢調査でいつ最大になったかを市町村別にたどると、35市町村のうち12で、高齢者数は2000年か2005年にすでにピークを迎えていた。以後は横ばいか減少に転じている。西川町では高齢者数が20年で5%減り、大蔵村・飯豊町・戸沢村でも2〜3%減った。人口の少ない中山間の町村ほど、高齢化の「量」の局面をすでに抜けている。
この12市町村を、第02節では量ピークアウト型(A)と呼んだ。反対に、山形市・天童市・東根市のように団塊世代の高齢化がこれからピークを迎える都市部(C)では、高齢者数はなお増え続けている。同じ県内で、高齢化が「量として先に進んだ地域」と「これから量が増える地域」が併存する二速構造になっている。
人口構造の変化は、年齢5歳階級のピラミッドで見ると、二速構造の中身がさらにはっきりする。量ピークアウト型の小国町では、2000年に比べて2020年は若年層の土台が大きく細り、人口の重心が高齢側へ上がって、ピラミッドは高い位置で膨らむ痩せた形に変わった。都市・基盤厚型の山形市も若返ってはいないが、生産年齢の層が相対的に残り、崩れ方は小国町ほど急でない。同じ20年でも、型によって人口分布の痩せ方が大きく違う。
ただし、見落としてはならない点がひとつある。介護や医療の必要量を左右するのは65歳以上の総数ではなく、介護が必要になる人が急に増える75歳以上(後期高齢者)の数になる。65歳以上がピークを越えた町でも、75歳以上はそれより遅れて増える。もっとも山形の実データでは、その75歳以上の伸びも一巡へ向かっている。県計の75歳以上人口は2000年の12.2万人から2010年の18.0万人へ5.8万人増えたのち、2010年から2020年の増加は1.1万人にとどまり、35市町村のうち20市町村では2010年代にすでに減少へ転じた。団塊世代が75歳に達する2020年代前半に一時的な増加が見込まれるが、その山を越えれば後期高齢者数も減少へ向かう。したがって「高齢者数が頭打ち=介護需要が消える」わけではないが、需要の伸びは緩み、施設整備は量的拡張から維持・更新の局面へ移りつつある。
04決算が映す再配分 ─ 老人福祉費は頭打ち、子育て費は倍増
人口構造の変化は、決算の中身にすでに現れている。市町村の民生費(社会保障関係の歳出)を目的別に分けると、山形県35市町村の合計で、老人福祉費は2007年度の301億円から2015年度の390億円まで増えたのち、2020年度406億円・2023年度405億円と頭打ちになった。一方で児童福祉費は388億円から800億円へ、16年で2.1倍に膨らんだ。民生費に占める高齢者向けの割合は29%から22%へ下がり、子ども向けは38%から42%へ上がっている。配分の重心は、高齢者から子育てへすでに移っている。
一人あたりに直すと、変化はさらに鮮明になる。子どもの数が20年で減り続けているにもかかわらず、子ども一人あたりの児童福祉費は2010年度の36.5万円から2020年度の66.2万円へ8割増えた。対して高齢者一人あたりの老人福祉費は11.3万円から11.2万円でほぼ横ばいにとどまる。児童福祉費の伸びには、国の児童手当拡充や幼児教育・保育の無償化(2019年)といった制度要因が含まれるが、それを差し引いても、自治体を通じて子ども一人に配分される資源が厚くなった事実は動かない。高齢者向けが量的に一巡した分、子育てへ振り向ける流れが、決算のうえで進んでいる。
05「社会保障で財政が続かない」は、趨勢では裏づかない
では、社会保障の膨張が財政の持続性を損なっているのか。財政の硬直度を示す経常収支比率は、県内35市町村の単純平均で2007年度の93%から2023年度の91%へ、悪化していない(県公表の加重平均でも2023年度は92%程度で、いずれも横ばい圏にある)。財政の自立度を示す財政力指数も単純平均で0.35前後の横ばいが20年続き、悪化のトレンドは見えない。民生費が歳出に占める割合は24%から29%へ上がったが、その中身を押し上げたのは高齢者向けではなく子育て向けで、しかも指数のうえで財政の硬直は進んでいない。「高齢化で社会保障費が膨らみ財政が破綻へ向かう」という単線的な予測は、山形の20年の実データにそのまま当てはまらない。
もっとも、これは楽観の材料ではない。財政力指数が0.2台の町村では、歳出の大半を地方交付税が支えており、自前の税収で回っているわけではない。経常収支比率が悪化していないのは、働き手が減って歳出も縮む一方、交付税が下支えするためで、いわば縮小均衡の状態になる。介護給付は介護保険特別会計、後期高齢者医療は別の特別会計で経理されており、一般会計の民生費だけを見ると高齢者向けコストの全体像は捉えきれない。財政が「破綻していない」ことと「自立して持続している」ことは別で、その差は市町村の類型によって大きく開く。
| 市町村 | 高齢化率 2020(%) | 高齢者数 ピーク年 | 生産年齢 20年増減(%) | 財政力 指数 | 経常収支 比率(%) | 民生費 対歳出(%) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 西川町 | 45.7 | 2000 | -45 | 0.22 | 88.6 | 13.4 |
| 朝日町 | 44.4 | 2000 | -42 | 0.19 | 96.3 | 21.3 |
| 舟形町 | 42.0 | 2005 | -40 | 0.19 | 87.2 | 14.6 |
| 真室川町 | 41.7 | 2005 | -43 | 0.21 | 90.4 | 20.1 |
| 尾花沢市 | 41.6 | 2005 | -43 | 0.28 | 89.8 | 19.5 |
| 小国町 | 40.6 | 2005 | -40 | 0.28 | 91.2 | 17.9 |
| 戸沢村 | 40.6 | 2005 | -43 | 0.16 | 81.9 | 16.8 |
| 鮭川村 | 40.5 | 2005 | -43 | 0.17 | 82.1 | 16.9 |
| 大江町 | 39.7 | 2005 | -35 | 0.26 | 83.3 | 16.7 |
| 大蔵村 | 39.2 | 2005 | -42 | 0.15 | 89.5 | 14.0 |
| 飯豊町 | 38.7 | 2005 | -37 | 0.20 | 89.3 | 17.9 |
| 金山町 | 37.0 | 2005 | -39 | 0.19 | 90.6 | 18.4 |
| 遊佐町 | 42.3 | 2020 | -41 | 0.29 | 88.0 | 21.5 |
| 最上町 | 40.3 | 2020 | -40 | 0.22 | 96.5 | 18.7 |
| 大石田町 | 40.0 | 2020 | -40 | 0.21 | 88.7 | 19.9 |
| 村山市 | 39.6 | 2020 | -33 | 0.35 | 86.9 | 22.5 |
| 上山市 | 39.3 | 2020 | -34 | 0.48 | 89.7 | 25.2 |
| 川西町 | 39.0 | 2020 | -37 | 0.25 | 93.5 | 19.1 |
| 白鷹町 | 38.7 | 2020 | -34 | 0.27 | 92.2 | 23.4 |
| 河北町 | 37.7 | 2020 | -29 | 0.44 | 95.3 | 23.4 |
| 庄内町 | 37.6 | 2020 | -32 | 0.30 | 95.8 | 24.2 |
| 酒田市 | 36.2 | 2020 | -29 | 0.48 | 97.1 | 30.2 |
| 長井市 | 35.7 | 2020 | -27 | 0.43 | 91.0 | 22.5 |
| 中山町 | 35.7 | 2020 | -25 | 0.35 | 94.9 | 30.6 |
| 鶴岡市 | 35.3 | 2020 | -27 | 0.41 | 95.5 | 31.3 |
| 三川町 | 35.1 | 2020 | -15 | 0.37 | 88.6 | 25.4 |
| 山辺町 | 34.4 | 2020 | -21 | 0.37 | 89.2 | 27.5 |
| 南陽市 | 34.0 | 2020 | -24 | 0.46 | 92.0 | 30.9 |
| 高畠町 | 33.8 | 2020 | -26 | 0.39 | 90.9 | 27.2 |
| 新庄市 | 33.1 | 2020 | -27 | 0.50 | 96.5 | 31.6 |
| 寒河江市 | 32.1 | 2020 | -17 | 0.53 | 87.7 | 27.8 |
| 米沢市 | 31.2 | 2020 | -23 | 0.57 | 92.6 | 37.0 |
| 天童市 | 30.3 | 2020 | -14 | 0.66 | 88.2 | 36.5 |
| 山形市 | 29.6 | 2020 | -14 | 0.74 | 90.3 | 37.8 |
| 東根市 | 28.3 | 2020 | -3 | 0.62 | 93.0 | 32.0 |
類型 A(左端navy)=量ピークアウト型:高齢者数が2000〜2005年にピークを越えた12町村。B(mid-blue)=高齢化進行・移行型:高齢者数がなお増加中の20市町村。C(gray)=都市・基盤厚型:財政力指数が高い山形・天童・東根の3市。高齢化率降順・類型別に配列。財政力指数・経常収支比率・民生費対歳出は2023年度、高齢者数ピーク年は国勢調査2000〜2020年による。
06含意 ─ 縮む地方で、財政の重心を子育てへ移せるか
三つの類型は、財政運営の課題がそれぞれ異なる。量ピークアウト型(A)では、高齢者向けの施設整備が一巡し、介護・医療インフラは新設から維持・更新の段階へ移りつつある。この局面では、高齢者向けの追加投資圧力が緩む分、子育て・移住・現役世代の確保へ資源を振り向ける設計が理屈のうえでは可能になる。ただし税基盤が同時に崩れているため、原資を自前でつくる力は弱く、交付税と広域連携に頼らざるをえない。都市・基盤厚型(C)は、高齢者数がこれからピークを迎える一方で税基盤が相対的に厚く、子育て投資の余地を最も持つが、これから来る高齢者向けコストの山に備える必要がある。
事業や政策の側から見ると、地方の投資の主戦場は、高齢者向けの新設から、現役世代の確保と子育てへ移りつつある。高齢者向けの施設は「量を増やす」市場から「維持し、使い方を変える」市場へ、需要の性格が変わる。反対に、保育・教育・移住定住・生産年齢の呼び込みは、決算のうえで資源が現に厚くなっている領域で、しかも一人あたりでは投資が濃くなっている。高齢化で財政が詰まるという通説の一歩先で、頭打ちを迎えた高齢者向けの余地を、いかに子育てと現役世代の確保へ移し替えるかが、縮小する地方の設計問題の中心に来ている。
結論:山形の高齢化は量のピークを越え、財政の重心は子育てへ移る
山形県35市町村の20年を人口と決算で突き合わせると、負担が重くなった主因は高齢者の増加ではなく働き手の急減で、この二つはほぼ完全に連動している。高齢者数は12市町村で既にピークを越え、決算でも老人福祉費は2015年度以降頭打ちで、児童福祉費は16年で倍増し、子ども一人あたりの投資は8割増えた。経常収支比率も財政力指数も悪化しておらず、社会保障で財政が続かないという単純な予測は、実データでは裏づかない。残る課題は破綻の回避ではなく、頭打ちを迎えた高齢者向けの余地を、崩れる税基盤のもとで子育てと現役世代の確保へどう移すかにある。