岩手の人口動態・働き手の減少が全国有数のペース
山形の高齢化は量のピークを越え財政は子育てへ動くと宮城の人口動態・仙台圏は高齢化が本格化するで、東北の二県を市町村単位で並べてきた。三つ目の岩手は、本州で最も広い県土に33の市町村が散らばり、高齢化率は県計で約34%と全国でも上位にある。ただし数字の正体を分けると、高齢化率を押し上げたのは高齢者が増えたこと以上に働き手が20年で4分の1以上減ったことにある。しかも高齢化の段階は、盛岡都市圏・内陸・県北・沿岸という地理とそのまま重なる。まずは人口動態を市町村ごとに分析し、地域ごとの高齢化の状況を地図にまとめる。
01本州一広い県を、市町村で並べる
岩手県の面積は、北海道に次いで全国で2番目に広い。その広い県土のなかに、県庁所在地の盛岡市から、人口数千人の山村・漁村まで、性格の異なる33市町村が並ぶ。高齢化を県平均の一本の数字でみると、この内部の違いはほとんど見えなくなる。
そこで、山形・宮城と同じ枠組みで、国勢調査の2000年から2020年までの20年を市町村ごとに並べる。高齢化率(65歳以上が総人口に占める割合。年齢不詳を除いて算出する)、働き手にあたる生産年齢人口(15〜64歳)の増減、高齢者数がいつ頂点を迎えたか。この三つを重ねると、岩手の高齢化が地域ごとにどの段階にあるかがはっきりする。
02高齢化の段階でみる三つの岩手
高齢化がどこまで進んだかで、岩手の33市町村は大きく三つに分かれる。山形・宮城と同じ三類型で、高齢者数が既にピークを越えた量ピークアウト型(A、12市町村)、高齢者数がなお増える高齢化進行・移行型(B、15市町村)、そして高齢者数はこれからピークを迎えるが、盛岡の都市機能や北上・金ケ崎の産業といった基盤が厚い都市・基盤厚型(C、6市町村)にあたる。C型は高齢化率が低く働き手も比較的保たれている。地図に落とすと、三つの型は岩手の地理と重なる。
C型(盛岡都市圏・工業拠点)は、盛岡市を核に、通勤圏の滝沢市・矢巾町・紫波町が連なり、そこへ自動車や半導体メモリの工場が集まる北上市・金ケ崎町が加わる。A型は、若年層の流出が早くから進み高齢者数さえ頂点を過ぎた地域で、内陸の山あいの町村(西和賀・葛巻・一戸・住田)と、沿岸の市町(陸前高田・釜石・大槌・宮古)に分かれる。B型は、その中間で、内陸の一関・奥州・花巻、県北の二戸・岩手町、沿岸の大船渡・久慈といった地方都市が並ぶ。地域ごとに、高齢化の局面がずれている。
03高齢化が進む町ほど、支え手が細る
「負担」の重さを測る老年従属指数(生産年齢人口100人が高齢者を何人支えるか)でみると、岩手ではどの類型でも指数が上がり続けている。量ピークアウト型は2000年の約44から2020年の約81へ、移行型は約39から約70へ達した。盛岡都市圏を含む都市・基盤厚型でも、約24から約47へと20年でほぼ倍増している。県内で最も若い地域でも、支える側の負担は着実に重くなっている。
2020年の高齢化率と、2000年からの働き手の増減率をとると、両者はきれいな右肩下がりの一直線に並ぶ(連動の強さを示す相関係数は−0.93で、山形・宮城と同じ水準にある)。高齢化率が高い町ほど、働き手が大きく減っている。盛岡都市圏と工業拠点(滝沢・矢巾・盛岡・北上・金ケ崎)は左上に位置し、高齢化率が低く働き手の減少も小さい。反対に、内陸・県北の山あい(西和賀・葛巻)や沿岸(大槌・陸前高田)は右下で、少ない働き手で多くの高齢者を支える構図になっている。
04高齢化の正体は、働き手の激減にある
岩手の高齢化率が全国上位まで上がった理由は、高齢者が急に増えたからではない。県計の生産年齢人口は、2000年の約90万人から2020年の約66万人へ、20年で27%減った。一方、高齢者人口(65歳以上)は約30万人から約40万人へ33%増えた。高齢者が3割増える一方で、働き手や子どもはそれ以上の速さで減っている。分母となる総人口が縮むなかで高齢者だけが増えれば、総人口に占める割合=高齢化率は跳ね上がる。岩手の高齢化率の高さは、高齢者の多さというより働き手の細さを映している。
しかも高齢者数そのものは、まだ増加の途中にある。33市町村のうち30市町村で、高齢者数は20年前より多い。高齢者数が既に頂点を越えたのは、内陸・県北の山あいと沿岸を中心とする12市町村にとどまる。盛岡都市圏では、高齢者数はこの20年でむしろ大きく増えた(都市・基盤厚型で約67%増)。高齢化率が低い盛岡都市圏でこそ、高齢者の「数」はこれから重くなる。介護・医療の需要は、割合の高い県北・沿岸で先に、数の多い盛岡都市圏で後から立ち上がる、という二段構えになる。
0533市町村を高齢化率で並べる
市町村ごとの数字を、高齢化率の高い順に並べる。最も高いのは内陸の西和賀町で51.0%、最も低いのは盛岡のベッドタウン滝沢市で25.6%。同じ県のなかで、高齢化率に25ポイント以上の開きがある。働き手の20年増減をみると、A型では多くが4割前後から半分近く減る一方、盛岡都市圏の矢巾町はほぼ横ばい、滝沢市も1割弱の減少にとどまり、対照が際立つ。
| 市町村 | 地域 | 高齢化率 2020(%) | 高齢者数 ピーク年 | 生産年齢 20年増減(%) | 高齢者数 20年増減(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 西和賀町 | 内陸 | 51.0 | 2005 | -49.7 | -2.9 |
| 葛巻町 | 県北 | 48.2 | 2005 | -49.9 | +5.0 |
| 住田町 | 内陸 | 45.3 | 2005 | -40.7 | -5.1 |
| 岩泉町 | 沿岸 | 44.4 | 2005 | -44.1 | +3.0 |
| 九戸村 | 県北 | 44.2 | 2020 | -42.7 | +18.2 |
| 普代村 | 沿岸 | 42.9 | 2020 | -45.9 | +27.5 |
| 一戸町 | 県北 | 42.5 | 2005 | -44.8 | +5.5 |
| 田野畑村 | 沿岸 | 42.4 | 2010 | -44.7 | +6.7 |
| 軽米町 | 県北 | 41.8 | 2020 | -40.8 | +13.7 |
| 洋野町 | 沿岸 | 41.6 | 2020 | -40.5 | +35.7 |
| 八幡平市 | 県北 | 41.5 | 2020 | -39.5 | +22.1 |
| 遠野市 | 内陸 | 40.6 | 2015 | -35.6 | +12.6 |
| 陸前高田市 | 沿岸 | 40.4 | 2010 | -39.2 | +7.5 |
| 釜石市 | 沿岸 | 40.1 | 2010 | -42.6 | +3.9 |
| 山田町 | 沿岸 | 40.1 | 2010 | -44.6 | +14.4 |
| 岩手町 | 県北 | 39.9 | 2020 | -40.4 | +15.5 |
| 平泉町 | 内陸 | 39.4 | 2020 | -34.2 | +22.7 |
| 雫石町 | 盛岡都市圏 | 38.6 | 2020 | -35.5 | +38.2 |
| 野田村 | 沿岸 | 38.5 | 2020 | -34.9 | +27.2 |
| 大槌町 | 沿岸 | 38.3 | 2010 | -47.1 | -0.7 |
| 宮古市 | 沿岸 | 38.1 | 2015 | -37.7 | +23.1 |
| 大船渡市 | 沿岸 | 38.0 | 2020 | -36.0 | +25.6 |
| 二戸市 | 県北 | 37.5 | 2020 | -34.0 | +20.6 |
| 一関市 | 内陸 | 37.1 | 2020 | -31.2 | +16.1 |
| 奥州市 | 内陸 | 35.6 | 2020 | -26.9 | +27.0 |
| 花巻市 | 内陸 | 34.8 | 2020 | -25.7 | +32.6 |
| 久慈市 | 沿岸 | 34.0 | 2020 | -29.3 | +35.5 |
| 紫波町 | 盛岡都市圏 | 31.4 | 2020 | -14.4 | +53.4 |
| 金ケ崎町 | 内陸 | 30.9 | 2020 | -14.3 | +31.7 |
| 盛岡市 | 盛岡都市圏 | 28.4 | 2020 | -19.3 | +65.1 |
| 北上市 | 内陸 | 27.7 | 2020 | -9.0 | +49.9 |
| 矢巾町 | 盛岡都市圏 | 26.6 | 2020 | -0.2 | +89.1 |
| 滝沢市 | 盛岡都市圏 | 25.6 | 2020 | -8.9 | +150.5 |
類型 A(左端navy)=量ピークアウト型:高齢者数が2020年までにピークを越えた12市町村。B(mid-blue)=高齢化進行・移行型:高齢者数がなお増える15市町村。C(gray)=都市・基盤厚型:高齢者数はこれからピークを迎え、都市機能・産業の基盤が厚い盛岡都市圏・工業拠点の6市町村(高齢化率が低く働き手も比較的保たれる)。山形・宮城の3ノートで共通の類型で、高齢化率降順に配列。高齢者数のピーク年・20年増減は国勢調査2000〜2020年による。
06地域ごとに異なる、三つの局面
地図と数字を重ねると、岩手の高齢化は地域ごとに別の局面にある。内陸・県北の山あい(A)は、若年層の流出が早く、高齢者数さえ2000年代に頂点を越えた。西和賀町は高齢化率が5割を超え、葛巻町も5割に迫り、働き手は半減した。人口そのものが薄くなるなかで、集落や生活基盤をどう畳み、どう束ねるかが問われる局面にある。
沿岸(A)は、もともと進んでいた高齢化に、2011年の津波による人口流出が重なった。宮古市・釜石市・陸前高田市など沿岸の市町では、高齢者数も既に頂点を過ぎている。復興の過程で市街地を再編してきたこれらの市町は、縮んだ人口を前提にした地域の設計を、他地域より早く迫られている。
盛岡都市圏と工業拠点(C)は、県内では最も若い。滝沢市は2014年まで人口が全国の村で最多だった規模を保ち、矢巾町は20年で人口を増やした。北上市・金ケ崎町には自動車や半導体メモリの工場が集まり、働き手を引き留めている。ただしここでも老年従属指数は倍増しており、高齢者の「数」はこれから最も大きく増える。いまの若さを、来る高齢化への備えへどう回すかが、この先の論点になる。
岩手全体を一つの平均でみると、「高齢化率が全国上位の、縮む地方」という一言で片づいてしまう。だが市町村に分けて地図に落とせば、既に人口が薄くなった県北・沿岸と、これから高齢者数が増える盛岡都市圏という、時間差のある二つの局面が同時に走っていることが見える。それぞれに別の備えが要る、というのが岩手の地域経済を読む出発点になる。次稿では、この人口動態に市町村の財政を重ね、各地域が高齢化にどう向き合っているかを掘り下げる。
結論:岩手の高齢化は地域ごとに局面がずれている
岩手県33市町村を国勢調査の20年で並べると、県計の高齢化率は約34%と全国上位だが、その正体は高齢者の増加以上に働き手の激減にある。生産年齢人口は20年で27%減り、高齢者人口はなお33%増えて、30市町村で高齢者数は増加の途中にある。高齢化の段階は地理と重なり、内陸・県北の山あいと沿岸(A)では高齢者数さえ既に頂点を越え、盛岡都市圏と工業拠点(C)では高齢化率が低い一方で高齢者数がこれから最も増える。介護・医療の需要は、割合の高い県北・沿岸で先に、数の多い盛岡都市圏で後から立ち上がる。県平均は、この時間差と地域差を覆い隠す。岩手を読む出発点は、割合でなく地域ごとの局面に分けて見ることにある。