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Sector Intelligence — Japan SSB Electrolyte & Applications

全固体電池『電解質と応用』を握る日本の特筆企業

全固体電池、日本の開発ラインアップはここだでは、全固体電池の6工程のうち②固体電解質が日本の急所、⑥車載・民生応用が売上の入る段であることを整理した。本ノートはこの2工程に絞り、各段に並ぶ日本の特筆企業の固有技術を企業別に深掘りする。①③④⑤は既存素材・装置産業の延長で『層の厚み』を作る段であり、差別化軸は②と⑥に集約される。

01②固体電解質を担う日本の6社

第2段の固体電解質は化学組成で硫化物系酸化物系の2系統に分かれる。硫化物系はイオン伝導率が高く大型車載BEV用セルに向き、酸化物系は化学的に安定で発火リスクが小さく民生用小型セルに広く使われる。日本企業は両系統に分かれて差別化を担い、6社がそれぞれ異なる原理に依拠する。

硫化物系:出光と三井金属が量産プロセスを確立

硫化物系は車載BEV用大型セルへの採用が想定される系統。日本では出光興産と三井金属鉱業の2社が、それぞれ異なる固有技術で量産化を進めている。

企業 固有技術・差別化点 拠点・提携・規模
出光興産硫化物系(Li2S系)。硫化リチウム原料の高純度量産プロセスを石油精製の硫黄取扱技術から確立。粒子径制御によりトヨタの量産BEV用セルに最適化千葉事業所(市原市)で2系列を並行整備。固体電解質大型パイロット装置(年産数百t、2027年中完工目標、2026年1月FID、EPCは千代田化工建設)+硫化リチウム大型製造装置(2027年6月完工目標、2030年に年1000t規模)。トヨタと量産協業(2023年合意)
三井金属鉱業硫化物系。A-SOLiD®(アルジロダイト型 Li6PS5Cl/Br)。塩素・臭素のハロゲン置換で高イオン伝導率と化学的安定性を両立。複数の自動車・電池メーカーへのサンプル供給を志向自社の製錬・材料技術を活用。複数電池メーカーとのサンプル供給段階

酸化物系:4社が異なる原理で並走

酸化物系は発火しにくく、民生用小型セルや薄膜全固体に向く。日本では4社がそれぞれ既存事業由来の異なる素材技術で並走しており、いずれも研究〜サンプル供給段階にある。

企業 固有技術・差別化点 用途・段階
三菱ガス化学酸化物系・複合系。粉末原料合成と分散制御。民生用全固体に向く小粒径・高比表面積の電解質粉末を志向原料化学の延長で展開。民生用途中心
AGCガラス系・酸化物系。ガラス溶融・成形技術を応用した薄膜・ペレット型電解質。薄膜全固体(産業センサー向け)への適用研究段階。硝子事業からの派生
オハラ酸化物系。LICGC™(リチウムイオン伝導性ガラスセラミック)。1995年に開発した酸化物系固体電解質で、光学ガラス由来のガラスセラミック焼結技術を応用民生用小型セル・薄膜全固体に向く。長年の供給実績
日本特殊陶業酸化物系セラミック。ガーネット型(LLZO系)セラミック電解質。点火プラグの絶縁セラミック技術を応用した焼結・界面制御研究開発フェーズ。試作品供給

②に並ぶ計6社(硫化物2社+酸化物4社)はそれぞれ違う原理に依拠している。出光は石油精製の硫黄取扱、三井金属はアルジロダイト型のハロゲン置換、三菱ガス化学は粉末原料合成、AGCはガラス溶融、オハラはガラスセラミック焼結、日本特殊陶業は点火プラグの絶縁セラミック。全社が既存事業で蓄積した素材技術を全固体電池に転用しており、6社の異なる差別化軸を1社で再現するのは容易ではない。日本陣営は『単一企業の独占』ではなく『複数社の別軸が並走する』構造で②を担う。

02⑥応用を担う日本企業 ─ 車載と民生の二層

第6段の最終応用は、セルをパック化して車両や民生機器に統合する段である。日本陣営はここで車載と民生の二層構造を持ち、時間軸の異なる2つの市場に同時にプレイヤーを並べる。車載BEV用は2027年以降の量産投入、民生機器用は既に商業流通している。

車載BEV:量産投入計画ではトヨタが先行

車載BEV用の量産投入は2027年から始まる。日本では現時点でトヨタが出光と組んだ量産投入計画を最も具体的に公表しており、ほかのOEMは時期・方式・規模で位置が分かれる。

企業 固有技術・差別化点 量産時期・拠点
トヨタ硫化物系大型セル。出光の固体電解質と組み合わせたBEV用全固体電池を量産投入。HEV/PHEV/BEV全方位ラインのパック設計+BMS(Battery Management System)統合を自社で完結。電池は子会社のプライムプラネットエナジー(PPES、トヨタ・パナソニック合弁)と組んで量産2027〜28年量産投入予定。出光(電解質)・PPES(セル量産)との3社協業

残るOEM5社は時間軸と方式が分かれる。日産は2028年量産を目標に横浜本社近郊でパウチセル型を試作中、ホンダは栃木県さくら市のパイロットラインを2025年から稼働させており量産投入は2020年代後半。スバル・マツダはトヨタ系提携経由での導入、いすゞは商用車向けの研究段階にある。

民生機器:既に商業流通している4社

民生機器用は既に量産・流通段階にあり、マクセル(硫化物系)、TDK・村田製作所・FDK(いずれも酸化物系)の4社がIoT・産業機器・ウェアラブル等の用途で全固体電池を市場供給している。容量・温度範囲・パッケージ形態(コイン型/円筒形/SMD型)の差で用途を棲み分ける構図。次世代材料(TDKの1,000Wh/L級は2025年サンプル出荷予定)は補聴器・スマートウォッチを射程に置き、リチウム一次・二次電池の代替を狙う。

企業 固有技術・差別化点 製品・用途
マクセル硫化物系固体電解質を採用したセラミックパッケージ型「PSB401010H」を2023年6月に量産開始。25倍容量の円筒形「PSB23280」は2023年10月開発発表、2024年1月下旬からサンプル出荷を開始し、2025年7月にPSB401010Hの電源モジュールを販売開始、2026年1月に同モジュールが京セラ鹿児島川内工場の産業用ロボットでテスト運用に入った。高温動作・長寿命に対応IoT・産業機器・医療機器・FA用途で市場流通中
TDK酸化物系(オールセラミック)。SMD型「CeraCharge」を2020年に製品化(容量100μAh級)し、IoT・RTC・低電力モジュール向けに供給を継続。2024年6月に次世代材料(1,000Wh/L級、酸化物固体電解質×リチウム合金負極)を発表、2025年からのサンプル出荷を予定(量産時期は顧客と協議のうえ決定)。ウェアラブル・補聴器・スマートウォッチを想定用途現行品:IoT・RTC/次世代:ウェアラブル・補聴器・コイン電池代替
村田製作所酸化物系小型全固体。積層セラミックコンデンサ(MLCC)の量産技術を応用。滋賀県野洲事業所に月産10万個規模の量産ラインを設置し、容量10mAh級で量産化。70〜80℃の高温環境を要する産業機械向けに採用実績あり。並行してEV向けセパレーター部材も展開産業機械・IoTセンサー・小型機器
FDK酸化物系小型全固体「SoLiCell®」。2020年に量産開始した高エネルギー密度モデル「SCC4532K」に加え、2025年12月に定電圧充電対応モデル「SCD4532K」のサンプル出荷を開始。寸法4.5×3.2×1.4mm、動作温度-20〜+105℃IoT・RTCバックアップ・エネルギーハーベスト

第6段の特徴は、車載と民生で完全に別の市場が同時並走している点。車載は『これから』、民生は『もう動いている』。日本陣営は両方の層に同時にプレイヤーを並べており、車載の量産が立ち上がるまでの間も民生で売上が動いている。

03②と⑥の組み合わせが日本陣営を形作る

②固体電解質と⑥応用の組み合わせは、日本陣営の戦略構造の中核である。②で材料の差別化を握り、⑥で最終製品として売上を立てる。両者を担う企業群がまったく違うことが、日本陣営の重要な特徴である。

②に並ぶ6社(出光・三井金属・三菱ガス化学・AGC・オハラ・日本特殊陶業)は素材化学に強い。⑥に並ぶ10社(トヨタ・日産・ホンダ・スバル・マツダ・いすゞ・マクセル・TDK・村田・FDK)はパック設計と車両/機器統合に強い。両者がサプライチェーンで接続されることで、『電解質→応用』の縦軸ができる。

中国はCATLが垂直統合で②から⑥までを一気通貫で握る戦略を取る。日本は②と⑥を別の企業群が分業で担う水平分業ネットワーク。この違いが両国の競争構造を分けており、日本陣営の強みは『単一企業の独占』ではなく『工程横断の組み合わせ』にある。②の素材6社と⑥の応用10社が同じサプライチェーンに乗ることで、初めて日本陣営の差別化が成立する。

結論:日本の全固体電池は『電解質を握り、応用で売る』陣営戦

全固体電池の差別化軸は、6工程のうち②固体電解質(材料の急所)と⑥車載・民生応用(売上の段)に集約される。②に並ぶ6社と⑥に並ぶ10社がそれぞれの差別化軸を持ち寄り、サプライチェーンで接続されることで日本陣営は競争に入る。中国がCATL単一企業の垂直統合で対抗するのに対し、日本は②電解質と⑥応用の組み合わせに強みを持つ水平分業ネットワーク。①③④⑤は既存産業の延長で『層の厚み』を作る段、勝負どころは②と⑥にある。

本ノートの位置付け:本ノートは、Nagasawa & Associates が独立リサーチャーとして公開する一般的な情報提供・啓蒙目的の分析であり、特定の企業・銘柄・金融商品の購入・売却・保有を推奨するものではありません。投資助言・金融商品の販売勧誘・税務助言のいずれにも該当しません。記載の数値・シェア・将来予測は公開情報をもとにした概数・推計を含み、参照元によって幅があります。投資判断はご自身の責任と判断で、必要に応じて有資格の専門家にご相談のうえ行ってください。
主要出典: 出光興産「固体電解質(全固体電池材料)大型パイロット装置の最終投資決定および建設開始について」(2026年1月29日、千葉事業所、固体電解質パイロット2027年中完工+硫化リチウム大型製造装置2027年6月完工目標)出光興産・トヨタ自動車「バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始」(2023年10月12日、両社共同発表)三井金属鉱業「全固体電池向け固体電解質 A-SOLiD®」(アルジロダイト型硫化物固体電解質)オハラ「LICGC™(リチウムイオン伝導性ガラスセラミック)」(LICGC™SP-01/PW-01)マクセル「全固体電池 PSB401010H/PSB23280」(硫化物系固体電解質、2023年10月開発発表、2024年1月下旬サンプル出荷予定)TDK「Successfully developed a material for solid-state batteries with 100-times higher energy density」(酸化物系全固体電池次世代材料、1,000Wh/L級、2024年6月17日発表)村田製作所 コーポレートサイト(全固体電池関連リリース)FDK「全固体電池 SoLiCell®」(SMD型小型酸化物系全固体電池)。 各社IR・有報・プレスリリース・公開特許、および経済産業省「蓄電池・電源産業戦略」を基に整理。会社別の固有技術はあくまで公開情報に基づく定性的整理であり、各社の今後の戦略・量産計画は変動する可能性がある。