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Sector Intelligence — Japan's Solid-State Battery Lineup

全固体電池、日本の開発ラインアップはここだ

中国の電池はもう市販、日本の本命は2027年で整理したように、経産省の『先進液系LIB』追加で日本の電池戦略は二段構えに修正されたが、本命の本丸は依然として全固体電池である。実際の開発は、原料・固体電解質・電極材・セル・製造装置・車載/民生応用までの6工程に分かれ、各段に主要な日本企業が並ぶ。本ノートは、その全景を一枚の表でラインアップ化する。

01全固体電池の開発工程は6段階に分かれる

全固体電池は、現行リチウムイオン電池と同じく「正極/電解質/負極/セパレータ/外装」を組み立てる構造をしているが、電解質を液体から固体に置き換えるため、固体電解質の合成と電極との界面処理という2つの新しい難所が生まれる。それを織り込んで、開発から量産までの工程を簡素化すると次の6段階になる。

工程 担う役割 日本の立ち位置
①原料・前駆体リチウム・ニッケル・コバルト・硫化リチウムなどの素材を精製・前処理する非鉄製錬と化学に強み。海外資源の権益確保が課題
②固体電解質 ★液体電解液に代わる固体イオン伝導体(硫化物系/酸化物系)を合成する硫化物系で世界先行する中核工程
③正極材・負極材正極(NCA/NMC)・負極(黒鉛/シリコン/Li金属)の活物質を作る正極材・バインダー・セパレータで世界シェア上位の層が厚い
④セル試作・量産電極を積層してセル化、加圧・封止して動くバッテリーに仕上げる車載BEV向けは2027年以降、民生用は既に量産・流通中の二層構造
⑤製造装置・プロセス電極コーティング、積層、加圧、外装などの専用装置を作る塗工・積層・外装・成膜の工程別に専門装置メーカーが並ぶ
⑥車載・民生応用 ★セルをパック化し、車両 or 民生機器に統合する完成車メーカーと民生機器メーカーが2層を作る

★印および橙色の段=日本陣営が前線に立つ段(世界先行と売上)。残りは既存素材・化学・自動車産業の延長で層の厚みを活かす段。

このうち、世界的に見て日本が最も差別化できているのが②固体電解質中国の電池はもう市販、日本の本命は2027年で触れた出光の千葉拠点(2027年6月完工目標)は、この第2段を国内供給で担おうとする動きである。残りの段は、既存の素材産業・化学産業・自動車産業の延長で「日本にもともと厚みのあるプレイヤーが並ぶ」構造になっている。

02工程×企業マップ ─ 国内ラインアップ全景

6段階の工程に、各段の主要な日本企業を当てはめると次のような布陣になる。各段に並ぶ企業の通し一覧を下表にまとめた。

工程 代表的な企業・銘柄
①原料・前駆体住友金属鉱山、田中化学研究所、JX金属、古河機械金属、双日(リチウム権益)、伊藤忠商事(コバルト)、豊田通商(資源権益)
②固体電解質 ★出光興産、三井金属鉱業、三菱ガス化学、AGC、太平洋セメント(酸化物系研究)、日本特殊陶業(酸化物系セラミック)
③正極材・負極材住友金属鉱山、日亜化学工業、Resonac、三菱ケミカル、田中化学研究所(正極前駆体)、クレハ(PVDFバインダー)、旭化成(負極材・セパレータ)
④セル試作・量産トヨタ、日産、ホンダ、パナソニックエナジー、マクセル、TDK、GSユアサ、村田製作所、FDK、プライムプラネットエナジー(トヨタ・パナソニック合弁)
⑤製造装置平田機工、芝浦機械、大日本印刷、凸版印刷、アルバック(成膜装置)、東レエンジニアリング、日立造船、IHI(プレス装置)
⑥車載・民生応用トヨタ、日産、ホンダ、スバル、マクセル、TDK、村田製作所、マツダ(トヨタOEM)、いすゞ(商用車)

この通し一覧で目立つのは、第3段のクレハ(PVDF系バインダー)・旭化成、第5段のアルバック(成膜装置)・東レエンジニアリング。現行リチウムイオン電池でも世界シェア上位を担っており、全固体への移行時にも『素材・装置の隠れた本命』として残る可能性が高い。

03日本が世界先行するのは「②固体電解質」段

表中で橙色に塗ったのは2段だけ。第2段(固体電解質)と第6段(車載・民生応用)で、性格はまったく違う。第6段は「お金が入る段」で、ここでBEV や民生機器として売上が立つ。一方の第2段は「ここで日本陣営が硫化物系の世界先行を担っている段」。下流すべての性能・コストを規定する戦略上の差別化工程である。

第2段の主役は2社。出光興産が硫化物系(Li2S系)固体電解質で、トヨタの量産BEV用全固体電池に必要な素材を専属に近い形で供給する。千葉県市原市で並行整備しているのは2系列の装置で、固体電解質大型パイロット装置(2027年中完工目標、FIDと建設開始を2026年1月発表、EPCは千代田化工建設)と、硫化リチウム(Li2S)大型製造装置(2027年6月完工目標、年産1000t規模は2030年目標)。もう一社が三井金属鉱業。アルジロダイト構造(Li6PS5Cl)系の硫化物固体電解質で、トヨタ以外の自動車メーカー・電池メーカーへの供給を視野に入れている。

表に並ぶ三菱ガス化学・AGCは酸化物系で、民生用・産業用の小型全固体に向く。ただし「硫化物=車載/酸化物=民生」と1対1に対応するわけではない。硫化物系を採用する民生用小型セル(マクセル)も既に量産段階にあり、第2段の電解質系統と第4段の用途は系統選択と用途選択の掛け合わせで第4段の二層化が形作られている。

04セル段(第4段)は車載BEVと民生で別世界

第4段のセル試作・量産には、全固体電池の最大の特徴が現れる。時間軸も用途もまったく違う2つの世界が同居している

車載BEV向けは「これから」の世界。トヨタが2027〜28年の量産投入を予定し、日産は2028年度の実用化、ホンダは2024年に栃木県さくら市のパイロットラインを完成させて2025年から稼働開始、2020年代後半に投入する電動モデルへの搭載を目指す。パナソニックエナジーも全固体電池の研究開発を継続中で、車載BEV向けの大型セルとして実用化を目指している。

民生用は「もう動いている」世界。マクセルは硫化物系固体電解質を採用したセラミックパッケージ型全固体電池「PSB401010H」を2023年6月に量産開始しており、IoT・産業機器・医療機器・FA用途で既に市場に出ている。その25倍容量の円筒形「PSB23280」は2024年1月にサンプル出荷段階に入った。TDKは酸化物系(オールセラミック)の超小型全固体「CeraCharge」をウェアラブル・補聴器向けに量産しているほか、2024年6月にウェアラブル・補聴器・スマートウォッチ向け次世代材料(1,000Wh/L級)を発表した。村田製作所は酸化物系の小型全固体をIoTセンサー用途で展開する。FDKもIoT用途で全固体電池の量産を進めている。

つまり「日本は全固体電池がまだ作れていない」と言うのは半分しか正しくない。大型車載BEV用の本命量産は2027年以降だが、小型民生用は硫化物系(マクセル)・酸化物系(TDK・村田)の両方が既に商業流通している。サプライチェーン全景で見ると、2つの異なる時間軸を別の企業群が同時に走らせている。

結論:日本の全固体は「1点突破」ではなく「層全体の陣営戦」だ

中国の電池はもう市販、日本の本命は2027年では「第2段(固体電解質)の量産拠点が2027年に予定通り立ち上がるか」が日本側全体の鍵だと整理した。これは今も正しい。原料・電極材・セル組立・製造装置・最終応用の各段に、もともと厚みのあるプレイヤーが並んでおり、第2段は硫化物系で世界先行する中核工程として位置づく。残りの段は既存素材・化学・自動車産業の延長で層の厚みを活かす陣営戦であり、中国が単一企業(CATL)を国家ぐるみで支援するのに対し、日本は分業ネットワーク全体で前線を厚くする構図にある。

主要出典: 経済産業省「蓄電池・電源産業戦略」(2026/6/2)出光興産「固体電解質(全固体電池材料)大型パイロット装置の最終投資決定および建設開始について」(2026/1、千葉事業所、固体電解質パイロット2027年中完工+硫化リチウム大型製造装置2027年6月完工目標)トヨタ・出光「BEV用全固体電池の量産協業」三井金属鉱業「アルジロダイト型硫化物固体電解質」住友金属鉱山 IR 資料(正極材・前駆体)ニュースイッチ「日産の車載全固体電池、研究開発の現在地」レスポンス「ホンダ全固体電池パイロットライン稼働へ」マクセル「全固体電池 PSB401010H/PSB23280」(硫化物系固体電解質)TDK「CeraCharge 次世代材料」村田製作所 全固体電池関連リリースFDK 全固体電池パナソニックエナジーGSユアサ R&D。 各社IR・有報・プレスリリース、および各社特許出願公開資料を基に整理。プレイヤーの並びは2026年6月時点の公開情報による。