新千歳と那覇でレンタカーは不足から余剰局面へ
2022年の夏、沖縄ではコンパクトカーが1日3万円を超えると報じられ、「レンタカーが借りられない」が全国の観光地を覆った。あれから4年、市況は逆を向いている。全国のレンタカー車両数はコロナ前比+34%・減車の底比+39%まで積み上がり、沖縄の一部では大幅な価格下落が起きた。稼働率の公表統計は存在しないため、本ノートは供給(車両数)と需要(空港旅客数)の一次データを重ね、新千歳空港圏と那覇空港圏で不足がどこまで解消したかを読む。結論を先に言えば、沖縄は車両がほぼ倍増し、需要が過去最多を更新してもなお供給が上回る局面に入っている。
01「借りられない」から供給余剰へ
レンタカーの需給を正面から測る指標は、実は存在しない。業者別・空港別の「稼働率」を集計した公的統計はなく、報道で見かける「稼働率9割」といった数字も、公的な網羅統計としては確認できない。そこで代わりに使えるのが、供給を表す登録車両数と、需要を表す代理指標である空港乗降客数の二つにあたる。どちらも月次・年次で公表され、両者を重ねれば需給の逼迫がどちらに動いているかは十分に読み取れる。
まず全国の供給から見る。全国レンタカー協会がまとめる登録車両数(各年3月末・全車種)は、コロナ直前の2020年3月に92.1万台だったものが、翌2021年3月には88.4万台へ減った。観光需要の蒸発で各社がクルマを手放した結果にあたる。ところが需要が戻り始めると増車は一気に加速し、2026年3月末には123.3万台に達した。減車の底からは+39%、コロナ前と比べても+34%多い水準にあたる。
供給が動く裏で、需要も同じ5年で大きく揺れた。新千歳空港と那覇空港の年間旅客数は、2020年・2021年のコロナ禍で3分の1前後まで落ち込み、その後V字で回復した。新千歳は2025年に暦年で2,583.7万人と過去最多を更新し、那覇も2025年度に2,346万人と過去最多に達して、いずれもコロナ前を上回った。問われるのは、この需要回復に対して供給がどれだけ積み増されたか、その釣り合いにある。
この4年で起きたのは、単なる回復ではなくオーバーシュートにあたる。需要が戻るより速いペースで車両が積み増され、地域によっては供給が需要を追い越した。その振れ幅は地域で大きく異なる。以下では、増車の起点となった減車ショックをたどったうえで、新千歳圏と那覇圏という二つの観光の玄関口で需給がどこに着地したかを見ていく。
02供給ショック ─ コロナ減車と半導体
2020年から2021年にかけての減車は、観光用途の乗用車で最も深かった。全国の乗用車は2020年3月の49.9万台から2021年3月に46.0万台へ、−7.9%削られている。貨物車が横ばいだったのと対照的で、旅客の消えた観光地ほどクルマを手放したことがうかがえる。しかも回復期には半導体不足が重なり、増車したくても新車が手に入らない状態が続いた。中古の旧型車を先に処分していた事業者が多く、「安い旧型車」の在庫が薄くなったことも、のちの価格高騰の一因になっている。
減車の深さと長さは地域で違った。新千歳空港圏を管轄する札幌運輸支局は、2020年3月の3.70万台から2021年3月に3.43万台へ減ったものの(−7.4%)、翌2022年3月には3.64万台まで戻している。これに対し沖縄は、2020年3月の4.12万台から2021年3月に3.25万台、2022年3月に3.19万台へと2年連続で沈み、底が1年長引いた。2022年夏に沖縄が全国の不足の震源になったのは、この「底が深く長い」供給と、戻り始めた需要が真正面からぶつかったからにあたる。
03地域で違う増車ペース ─ 沖縄はほぼ倍増
底を打ったあとの増車ペースには、地域差がはっきり出た。2021年3月末を100として車両数の指数をとると、全国が2026年3月末に139.5、札幌支局が160.1まで伸びたのに対し、沖縄は192.7で、2021年3月末から5年で+93%とほぼ倍増している。減車がいちばん深かった沖縄が、回復局面ではいちばん激しく積み増したことになる。
沖縄で増車がこれほど進んだ背景には、事業者の急増がある。沖縄総合事務局の集計では、県内のレンタカー事業者は2023年度に1,885者と前年から約5割増え、車両数も5万台を超えて過去最多を記録した。そもそも沖縄は2015年に「わ」ナンバーを使い切って「れ」ナンバーが導入されたほど早くから拡大してきた市場で、そこにコロナ後の新規参入がさらに重なった。深刻な不足と価格高騰が「参入すれば儲かる」というシグナルとして働き、需要の回復ペースを超える供給を呼び込んだ構図にあたる。次の二つのセクションで、この増車が需要とどう釣り合っているかを空港圏ごとに見る。
| 各年3月末 | 沖縄(台) | 指数 | 札幌支局(台) | 指数 |
|---|---|---|---|---|
| 2020 | 41,155 | 127 | 37,023 | 108 |
| 2021 | 32,467 | 100 | 34,291 | 100 |
| 2022 | 31,914 | 98 | 36,398 | 106 |
| 2023 | 42,613 | 131 | 43,014 | 125 |
| 2024 | 51,017 | 157 | 46,744 | 136 |
| 2025 | 56,658 | 175 | 50,107 | 146 |
| 2026 | 62,554 | 193 | 54,903 | 160 |
指数は2021年3月末=100。全車種・「わ」および「れ」ナンバー登録ベース。出所:全国レンタカー協会。
04那覇圏 ─ 車両倍増で余剰局面へ
那覇圏は、増車が需要回復を追い越し、はっきり余剰の側に振れている。需要は決して弱くない。那覇空港の年間乗降客数は2024年度に2,164.7万人でコロナ前の2019年度(2,061万人)を上回って過去最高を更新し、2025年度は2,346万人とさらに8%伸びて過去最多に達した。それでも供給の増え方がそれを上回っている。
車両1台あたりが1年間に捌く旅客数を見ると、2019年度の502人から2025年度は414人へ、約18%低下している。需要が過去最多でも、車両がそれ以上に増えたため、1台あたりの負荷はむしろ軽くなった。時系列で追うと、2022年夏が全国で最も深刻な不足の震源で、翌2023年も観光ピークの7〜8月はなお足りず、2025年から2026年にかけては供給過多と価格急落が報じられる、という順で緩んできた。「借りられない」から大幅な価格下落への反転は、この供給曲線が需要曲線を追い越した瞬間に起きている。
05新千歳圏 ─ 需要は過去最高でも需給は緩和
新千歳空港圏は、那覇ほど供給が突出せず、需要と供給がともに強く伸びて比較的均衡に近い。需要側では、2025年の年間旅客数が暦年で2,583.7万人と過去最多を更新し、コロナ前の2019年を上回った。8月単月も前年同月比8%増の251.5万人に達している。物価高で国内客が細るなかインバウンドが下支えする構図で、夏の需要はコロナ前を上回っている。それでも需給が逼迫し切らないのは、供給がそれ以上に増えたからにあたる。
夏期(7月・8月)の旅客数を同年3月末の車両数で割った需給圧力の代理指標をとると、インバウンドの急回復に増車が追いつかなかった2023年夏がピークで、以降は緩んでいる。2023年夏を100とすると、2024年夏93.6、2025年夏92.6、2026年夏は85.0(推計)と下がる。2026年夏の値は、車両数を2026年3月末の実数、夏期旅客数を前年比+0.6%(2026年6月実績の伸び)と仮定した推計にあたる。需要が過去最高を更新しても、圧力はむしろ下向きにあたる。新千歳圏の現状は、逼迫の解消した「ほぼ足りている」状態と読める。
年間ベースで並べても同じ方向が読める。札幌支局の車両数が増え続ける一方、車両1台あたりが1年間に運ぶ旅客数は、コロナ前2019年の716人から2025年には516人へ、3割近く下がった。需要が過去最高を更新しても、供給の増加がそれを上回った結果にあたる。
06残る逼迫は「人手」にある
ただし、車両が足りることと、借りたいときに借りられることは同じではない。りゅうぎん総合研究所は2023年の推計で、観光ピークの7〜8月の充足率を65〜70%と見込み、年間を通して100%を下回ると予測した。要因として挙げられたのは車両数そのものではなく、受付・配車・洗車を担う人手の不足にあたる。クルマはあっても、回転させる人がいないために予約を絞る──「不足感」は供給台数ではなく現場のオペレーションから生まれていた。
この構図は全国にも通じる。格安大手のニコニコレンタカーでは、運営元の公表によれば2025年3月に予約を受けられなかった率(チャンスロス率)が38.1%と前年同月から7.3ポイント上昇した。全体では供給が余り気味でも、繁忙期・特定地域・特定車種では取り合いが続くという、平均値では見えないミスマッチにあたる。沖縄では観光客の約6割がレンタカーを使う過度な依存構造も指摘されており、台数を積み増すだけでは解けない、二次交通そのものの設計が次の論点として残る。
結論:レンタカー不足は増車で解消し那覇は余剰局面へ
那覇圏と新千歳圏は、いずれも2022年の深刻な不足を抜け、供給が需要に追いついた。ただし到達点は違う。那覇は車両が2022年の底からほぼ倍増し、需要が過去最多でも1台あたりの負荷が2割近く下がるところまで供給が先行して、価格急落を伴う余剰局面に入っている。新千歳は需要が過去最高を更新しているぶん均衡に近く、需給圧力は2023年夏のピークからゆるやかに下がる程度にとどまる。両圏に共通して残るのは、車両ではなく洗車・配車の人手に起因する繁忙期・局地のミスマッチにあたる。減車の反動で始まった増車は、需要回復を追い越し、いまや「足りるかどうか」から「捌けるかどうか」へと論点を移している。