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Sector Intelligence — Stablecoin Economics

Coinbaseが受け取る、もう一つの「USDC配当」
── 収益分配契約の解剖

本稿は、CircleとCoinbaseの2025年第3・第4四半期決算開示およびSEC登録の協業契約条文に基づき、両社のUSDC収益分配構造を再構築する。リザーブ運用益$2.63B(FY2025)のうちCoinbaseに帰属する金額は約$1.35B(51%)、Circleの最終取り分は約37%である。本分析では、契約構造の核心、両社決算からの数式の再現、金利低下局面における感応度を順に検討し、2026年8月の契約更新に向けた論点を整理する。

分野ステーブルコイン/フィンテック 対象Circle・Coinbase 期間FY2025

Circleの2025年第4四半期リザーブ運用益は$733M。同期間、流通・取引コストとして$461Mが外部に流出した。グロス収入1ドルあたり約63セントが、Circle以外の主体に分配される構造である。本稿の検証によれば、その最大の受領者はCoinbaseであり、両社が2023年8月に締結した協業契約の条件設計が、現在の収益分配を機械的に決定している。

01収益構造:リザーブ運用益への一極集中

Circleの収益構造は、リザーブ運用益への高度な依存によって特徴づけられる。FY2025の総収入$2.747Bのうち、リザーブ収入は$2.637B、すなわち全体の約96%を占める。リザーブ資産はBlackRock運用のCircle Reserve Fund(USDXX)に集約され、3〜4ヶ月物の米国短期国債およびオーバーナイト・レポで運用されている。USDC流通量は2025年末時点で$75.3B(前年比+72%)に達した。

この収益モデルは、シンプルな恒等式で表現できる。収益 = 平均流通残高 × 実効利回り。すなわち、Circleの収益は短期金利水準とUSDC流通量の積で決まる構造であり、「ソフトウェア企業」というコーポレート・ナラティブとは裏腹に、実態としては金利感応型の金融インフラ事業に分類すべきである。

USDC保有者がCircleから直接的な利息を受領することはない。2025年7月に成立したGENIUS法は、issuerからの利息支払いを明示的に禁じており、運用益は全額Circleに帰属する。ただし、distributorであるCoinbaseが提供する「USDC Rewards」(執筆時点で年率約3.85%)は、現行法の適用対象外と整理されている。この「3-party構造」が今後の規制論点となる可能性については、第5章で改めて論じる。

もっとも、Circleがリザーブ運用益の全額を保持するわけではない。流通量の拡大に比例して、特定の外部主体への分配額もまた拡大する仕組みが、契約上組み込まれている。

02契約構造:「100%/50%」の経済設計

2023年8月18日付で発効したCircle・Coinbase間のCollaboration Agreementは、その経済条項を以下の2点に集約する。

"Coinbase receives 100% of the interest income from USDC held on its platform, and the parties split 50/50 the residual income from USDC held off-platform."

条項の含意は明確である。Coinbase上に保管されるUSDCのリザーブ運用益は全額がCoinbaseに帰属する。Coinbase以外の場所(他取引所、DeFi、ウォレット、決済アプリ等)に保管されるUSDCの運用益は、Circle・Coinbase両社が直接保有する分を除外したうえで、50:50で折半される。両社合計の取り分は流通量の構成により変動するが、現状の構造ではCoinbase側に有利に作用する。

この契約構造は、両社のインセンティブを非対称的に設計している。Coinbaseは、USDCを自社プラットフォーム上に集約することで、リザーブ運用益の100%を捕捉できる──同社がUSDC保有者向けRewardsプログラムに継続的にコストを投じる経済的合理性は、ここに由来する。一方のCircleは、自社が直接的な顧客接点を持たない構造上、Coinbase外でのUSDC普及(DeFi、決済ネットワーク、海外取引所、オンチェーン用途)の拡大が収益最大化の主たる経路となる。両社は同一契約の下で、相補的な役割分担を担っているとも解釈できる。

契約期間は当初3年とされ、両当事者からの異議申し立てがない限り自動更新される。最初のリニューアル時期は2026年8月──本稿執筆時点から残り約4ヶ月の地点に到達している。さらに留意すべきは、CoinbaseがCircle側のUSDC関連の新規パートナーシップ締結に対して拒否権(veto right)を保有する点である。分配率のみに注目した分析では見落とされがちな条項だが、Circleの戦略的自由度を実質的に拘束する効果を持つ。

USDCリザーブ運用益の分配構造 流通残高をオンプラットフォームとオフプラットフォームに区分し、それぞれの分配率を示した契約構造図 FIGURE 01 USDCリザーブ運用益の分配スキーム USDCリザーブ運用益 主に米国短期国債・レポ / 約4%相当 On-Platform USDC Coinbase上の残高(Q3'25 平均 $15B) ≒ 全USDCの約20% Off-Platform USDC 他取引所・DeFi・決済等(平均 $53B) ≒ 全USDCの約80% 100% 50% 50% Coinbase プラットフォーム保有分の全額 Coinbase 外部分の50% Circle 外部分の50% Coinbase合計:FY2025で約$1.35B(≒51%) Circle純取り分:1ドルにつき約$0.37
FIG.012023年8月締結の協業契約に基づく収益分配構造。Coinbaseはプラットフォーム上の残高すべて、および外部残高の半分を獲得する。Circleの「純取り分」は1ドルあたり約0.37ドル。
出所:Circle 10-K/Coinbase 10-K/Circle Q3'25・Q4'25決算開示。

03定量的検証:両社決算からの数式再現

協業契約には非開示部分が含まれるものの、両社の四半期決算を相互参照することで、リザーブ運用益と分配額の関係は高い精度で再構築可能である。Coinbaseが2025年第3四半期株主向けレター(SEC Form 8-K)において開示したステーブルコイン収入の分解は、本検証の起点となる。

第一に、オンプラットフォーム分。平均USDC残高$15B、対応収入$159M。年率換算した実効利回りは4.24%であり、同期間の米国3ヶ月物国債利回り(4.0〜4.3%)とほぼ一致する。リザーブ運用益が中間的な経済的ロスなくCoinbaseに帰属している実態が、この数値から確認される。

第二に、オフプラットフォーム分。平均残高$53B、対応収入$196M。年率換算では1.48%と、オンプラットフォームの約3分の1の水準にとどまる。この差は50:50分配条項と整合的に説明される。グロスでみれば実効利回りは2.96%相当($53B × 2.96% × 25%=$196M)であり、オンプラットフォーム比で低い実効利回りは、Circle・Coinbase以外の流通先(他取引所、決済ネットワーク等)への二次的なインセンティブ支払いが控除された結果であると推定される。

Circle側の数値も同様の整合性を示す。同社の2025年第3四半期リザーブ収入は$711M、流通・取引コストは$448M。コストの大半はCoinbase向けの契約上の分配であり、Circleの最終取り分は$263M、粗利率(同社開示するRLDC margin)は約37%にとどまる。

四半期ベースで追跡すると、Q4'25のリザーブ収入は$733M、流通・取引コスト$461Mと、流出比率はむしろ約63%へ上昇している。USDC流通量の拡大がCoinbase経由で進む限り、Circleの限界的な取り分比率はむしろ低下する構造的力学が、ここに観察される。

2025年通年での収益フロー FY2025のリザーブ収入総額と、Coinbase・Circleそれぞれの取り分を示すサンキー図風の流量図 FIGURE 02 2025年通年の運用益フロー(推計ベース) USDCリザーブ収入 FY2025 $2.63B 流通量 約$75Bの 利息収入 Coinbase ≈ $1.35B Circle純取り分 ≈ $0.97B 他取引所・決済等への分配 ≈ $0.31B 51% 37% 12%
FIG.022025年通年の概算分配フロー。Circleが生み出した$2.63Bのリザーブ収入のうち、約51%がCoinbaseに、約12%がBinance・Bybit等の他流通先に流出し、Circleの手元に残るのは約37%。
出所:Circle FY2025決算(Q1〜Q4合算)。Binance・Bybit分は推計値。

04金利感応度:シナリオ分析

このビジネスモデル最大のリスク要因は、金利感応度である。Circleのアナリスト向け開示および外部試算(Dragonfly Capital、Coin Metrics)をクロスチェックすると、政策金利の100bp低下はCircleのrun-rate総収入を約23%($618M)、粗利益を約30%($303M)圧縮すると試算される。同水準の収益減を流通量増加で完全相殺するには、USDC流通量を約$28B(+44%)拡大する必要がある。25bp利下げ単独でも、年間約$155Mの収入減少が想定される。

重要なのは、この感応度はCircle固有の問題ではないという点である。同じ100bp利下げは、Coinbaseのステーブルコイン収入(FY2025年率$1.4B規模)に対しても、ほぼ同率の負の影響を及ぼす。両社は同一の金利曲線上に位置し、収益が同方向に動く構造を共有している。この事実は、後述する2026年8月の契約再交渉におけるインセンティブ構造を理解する上で本質的に重要である。

2026年の金利環境については、市場予想に幅がある。CME FedWatchの中心シナリオは2026年末で政策金利3.5〜3.75%、現状から50〜75bpの利下げを織り込む。Mizuho Securities の試算では、この環境下でもCircleのEBITDAは2027年に$922M程度で安定すると見込まれているが、当該シナリオはUSDC流通量が現状の$75Bから$120B超まで成長する強気の前提に依拠する。流通量成長の鈍化、または金利低下の加速が組み合わされば、Circleの粗利益は二桁の圧縮にさらされる構造的な脆弱性を抱えている。

金利感応度シミュレーション USDC流通量と実効利回りの組み合わせによるリザーブ収入のシナリオマトリクス FIGURE 03 流通量 × 実効利回り:年間リザーブ収入のシナリオ 利回り↓ 流通量 → $60B $75B $95B $120B 4.5% 3.5% 2.5% $2.7B $3.4B $4.3B $5.4B $2.1B $2.6B $3.3B $4.2B $1.5B $1.9B $2.4B $3.0B 2025年実績ライン 流通量 $75B / 利回り 約3.5% / 収入 $2.63B
FIG.03USDC流通量と実効利回りの組み合わせによる年間リザーブ収入のシナリオ。100bp利下げを完全に相殺するには、流通量を$75B → $103B程度(+37%)まで伸ばす必要がある。
出所:Circle Q3'25決算開示・Dragonfly感応度分析・Coin Metrics試算をもとに筆者作成。

仮にFRBが2026年中に75bp利下げを実施した場合、Circleの粗利益は22〜25%圧縮される試算となる。同環境下ではCoinbaseのオンプラットフォーム残高分も実効4.2%から3.5%程度まで利回りが低下し、比例的に収益が縮小する。両社の収益が同方向に動く以上、契約再交渉の場でCoinbaseが分配率を大幅に譲歩する経済的合理性は弱い。むしろ、低金利環境下では両社が「絶対額」を取り合う緊張が高まる構図と評価される。

052026年8月:契約更新における論点整理

以上の構造分析を踏まえると、2026年8月の契約更新タイミングは両社にとって重要な戦略的分岐点となる。Circle側のインセンティブは明確である。粗利率37%という現状からの改善には、Coinbase以外の流通網(Binance、Bybit、Stripe、決済ネットワーク等)の多様化を通じた交渉力の強化が必要となる。

Circleが直近で投入している主要打ち手は、いずれもこの方向性を示唆する。Circle Payments Network(CPN:2026年2月時点で年率$5.7BのTPV)、Arc(独自L1チェーン、2026年メインネット予定)、CCTP V2(クロスチェーン・USDC送金で62%シェア)の三本柱である。これらは短期的には収益への寄与が限定的であるものの、Coinbase依存度の構造的な低減を通じて、契約再交渉におけるレバレッジ強化に資すると評価される。

一方、Coinbase側の戦略は、契約上もっとも有利な条項である「オンプラットフォーム100%」の最大化に集中する。具体的施策として、リワードプログラムの拡張(2025年Q3に機関投資家向けにも対象拡大)、Base L2上の決済ユースケース拡張、Coinbase One Cardの展開などが挙げられる。Q4'25のオンプラットフォーム平均USDC残高は$17.8B(Q3比+18%)と過去最高を更新しており、戦略は計画通り機能していると判断される。

注目すべきは、Coinbaseが受領する分配額が同社損益計算書上では「Stablecoin revenue」として開示され、市場がサブスクリプション・サービス収益(リカーリング収益)として評価している点である。FY2025のCoinbase Net Revenue $6.9Bのうち、ステーブルコイン収入は約$1.4B(約20%)を占める。トランザクション収入が暗号資産価格・ボラティリティと相関するのに対し、ステーブルコイン収入は金利曲線にほぼ独占的に依存しており、収益の質的差異が大きい。

言い換えれば、Coinbaseの「金融機関化」は、USDC分配契約を経由して、バランスシートを介さない金利エクスポージャーの構造的な取り込みとして既に進行している。これは伝統的銀行が預金で資金調達し貸出で運用するスプレッド・ビジネスと、経済的実態において近接した収益モデルである。

結論:USDC 収益分配は「相互依存の均衡」にある

本分析から導かれる結論は以下の3点に集約される。

第一に、2023年8月締結の現契約は、3年間の運用を経て、両社にとって相互依存性の高い均衡状態に到達している。Circleは流通網の中核を握るCoinbaseに対する依存度を短期間で低下させることが困難であり、Coinbaseもまた、USDCに代替し得るドル・トークンをCircle以外から調達する選択肢を実質的に持たない。

第二に、2026年8月の契約更新における主要論点は、分配率そのものよりも、(i)Circleの戦略的自由度に関する条項──特にCoinbaseが保有する新規パートナーシップへの拒否権の緩和──と、(ii)低金利環境下での絶対額の最低保証メカニズムであると予想される。CLARITY法案におけるdistributor向けyield禁止条項の動向次第では、Circle側の交渉力が一段と強化される可能性がある。

第三に、両社の収益構造が同一の金利曲線に依存している以上、いずれか一方が一方的な利益を得る再交渉は構造的に成立しにくい。発表される契約条項の詳細こそが、ステーブルコイン市場における今後の力学を決定づけるものとなる。

主な出典 Circle Internet Group, Inc. — Form 10-K (FY2025) / Q3 2025 Earnings Release & Shareholder Letter / Q4 2025 Earnings Update | Coinbase Global, Inc. — Form 10-K (FY2025) / Q3 2025 Shareholder Letter (SEC 8-K) / Collaboration Agreement (2023年8月18日付) | Architect Partners, Coin Metrics (State of the Network Issue 317, 360), Dragonfly Capital (rate sensitivity analysis), CryptoSlate (Q4'25分配額分析), CoinDesk, Mizuho Securities Equity Research.

本記事はCircleおよびCoinbaseの公開開示資料に基づく構造分析であり、特定の証券に関する投資助言を構成するものではありません。

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