Circle Q2決算、金利頼みの収益が頭打ちでArcが前に出る
Circle Internet Group(NYSE: CRCL)が2026年8月5日に第2四半期決算を発表した。Circle 2026年Q1決算を解説では「Reserve依存からの脱却が数字に出た四半期」と整理したが、今回は様相が変わる。総収益は$701M(+7% YoY)と伸びが一桁台に落ち、USDC流通残高は期末$73.3Bと前四半期の$77.0Bから減少した。にもかかわらず通期のOther Revenueガイダンスは$150〜170Mから$310〜330Mへ倍増している。差を埋めたのはARC Tokenプレセールの収益認識で、これを除くと本業の見通しはむしろ切り下がった。数字の入れ替わりが何を意味するのかを、一次開示から順に分解する。
01損益の6割は分配費用で出ていく
Circleの損益計算書は、一般的な事業会社とはかなり形が違う。Q2の総収益$701Mのうち$668M(95%)はReserve Income、つまりUSDCの裏付けとして預かった資金を米国短期国債などで運用して得た利息収入になる。手数料やサブスクリプションにあたるOther Revenueは$34Mで、全体の5%に届かない。トップラインの水準を決めているのは、商品が売れた量ではなく預かり残高×金利という2つの変数にある。
そして稼いだ金額の6割近くが、そのまま外部に出ていく。Total Distribution, Transaction and Other Costsは$412Mで、その大半はUSDCを配ってくれる流通パートナーへの分配金にあたる(構造はCoinbaseが受け取る、もう一つの「USDC配当」で分解した)。残ったRLDC(Revenue Less Distribution Costs)$289Mが、Circleが自社の裁量で使える原資になる。
もっとも、この分配比率は改善している。分配等費用の伸びが+1% YoYと総収益の+7%を下回ったため、RLDCマージンは41%(+302bps YoY)まで上がった。GAAPの純利益$48Mは前年同期の$482Mの赤字から黒字に転じているが、これは事業が急改善したというより、2025年Q2のIPOに伴う巨額の株式報酬費用が剥落したことによる。営業費用は$254M(-56% YoY)と一見急減して見えるものの、株式報酬などを除いた調整後営業費用は$146M(+23% YoY)と着実に増えている。事業の実勢に近いのは後者の数字になる。
02USDC残高は期中平均で最高、期末で減少
今回の決算で最も見方が割れるのが、USDC流通残高の動きになる。期中平均は$76.5Bと過去最高を記録した一方、期末残高は$73.3Bと前四半期末の$77.0Bから4.8%減った。四半期の入口では高く、出口に向かって減っていったことを意味する。2025年末の$75.3Bと比べても年初来でマイナスになっており、Circleが掲げる「複数年・サイクル平均で40% CAGR」という流通残高ガイダンスとは、足元で逆方向に動いている。
背景は発行と償還の差に表れている。四半期のUSDC発行は$83B、償還は$87Bで、償還が発行を上回った。Allaire CEOは決算発表で「今回の財務結果は現在の金利環境と減速した暗号資産市場を反映している」と述べ、外部環境の要因を明言した。実際、CoinMarketCap定義のステーブルコイン市場シェアも27%(-66bps YoY)へ小幅に低下している。
| 指標 | Q2 2026 | 前年同期比 | 前四半期比 |
|---|---|---|---|
| USDC流通残高(期末) | $73.3B | +19% | -4.8% |
| USDC流通残高(期中平均) | $76.5B | +25% | 過去最高 |
| オンチェーン取引高 | $14.8T | +151% | -31% |
| Reserve Return Rate | 3.48% | -66bps | ほぼ横ばい |
| 自社プラットフォーム上のUSDC | $12.4B | +106% | 日次加重19.5% |
| ステーブルコイン市場シェア | 27% | -66bps | 28%から低下 |
| 有意ウォレット数 | 700万 | +24% | ─ |
もう一つ目を引くのが、オンチェーン取引高が前四半期の$21.5Tから$14.8Tへ31%減った点になる。前年同期比では+151%と伸びているものの、四半期単位では明確に縮んだ。この指標は自動売買の往復も含むため水準そのものの解釈には幅があるが、方向としては暗号資産市場全体の活動低下と整合する。
反対に構造的な改善が続いているのが、自社プラットフォーム上に置かれたUSDCになる。期末残高は$12.4B(+106% YoY)、日次加重平均比率は19.5%(+1,204bps YoY)まで上がった。ここに置かれた分は第三者ディストリビューターへの分配負担が相対的に小さいため、同じ$1の流通でもCircleの取り分が大きい。前四半期の17.2%からさらに積み上がっており、残高全体が減る局面でもマージンを支える役割を果たしている。
03金利低下がそのまま効く収益構造
Reserve Incomeは$668M(+5% YoY)と、平均流通残高の+25%に対して大きく見劣りする伸びにとどまった。差を生んでいるのがReserve Return Rate、つまり預かり資金の運用利回りになる。Q2は3.48%で、前年同期から66bps下がった。CFOのFox-Geenは期中のSOFR(米ドル短期金利の代表的な指標)低下を要因に挙げている。
この2つの効果を金額に置き直すと、収益の伸びが鈍った理由が具体的に見える。平均残高は約$61B規模から$76.5Bへ$15B以上増え、これだけなら+$158M程度の押し上げになる。一方で利回りの66bps低下は、増えた後の残高全体に効くため-$126M程度の押し下げをもたらす。差し引きが実際の増加額$34Mとほぼ一致する。
ここに事業としての構造問題が現れている。Reserve Incomeを守るには、金利低下と同じ速さで流通残高を増やし続けるしかない。ところがQ2は、その流通残高が期末で減った。価格変数(金利)と数量変数(残高)が同時に逆風に回った四半期として読むのが素直になる。
04Coinbaseとの契約は現行条件で更新
Circle 2026年Q1決算を解説で「本決算で提示されなかった最大の構造的論点」として挙げたのが、2026年に更新期を迎えるCoinbaseとのUSDC収益分配契約になる。今回、Allaire CEOが決算説明会で「Coinbaseとの契約は既存条件で更新された」と述べ、この論点はいったん決着した。詳細な経済条件は開示されていない。
相手側の数字を並べると、この関係の重さが分かる。Coinbaseが2026年7月30日に発表したQ2決算では、ステーブルコイン収益が$292M、Coinbase上のUSDC平均残高は過去最高の$20Bで、期末のUSDC流通残高の3割超にあたる。Circleが計上した分配等費用$412Mの相当部分が、この1社への支払いで説明される計算になる。
条件が据え置かれたことは、短期的には予見可能性の確保にあたる。一方で、分配比率を引き下げてマージンを取り戻す道は当面閉じたことも意味する。RLDCマージンの改善余地は、契約条件の再交渉ではなく、自社プラットフォーム上のUSDCを増やす方向に限られる。19.5%まで上がった日次加重比率が重要KPIであり続ける理由がここにある。
05ARC Tokenプレセール$242Mが会計に載る仕組み
今回のガイダンス上方修正を作ったのが、ARC Tokenのプレセールになる。ArcはCircle 事業戦略の構造解読で整理した「自社ブロックチェーン」にあたるレイヤーで、ARCは、Arcが将来PoS系(保有量に応じて検証者を選ぶ合意方式)のコンセンサスへ移行した段階で導入される予定のネイティブトークンにあたる。Q1決算と同時に開示された時点の調達額は$222Mだったが、Q2に執行された最終的な総額は$242Mになった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調達総額 | $242M(Q2 2026に執行。当初開示時点は$222M) |
| 評価額 | 完全希薄化後のネットワーク価値$3.0B、トークン単価$0.30 |
| 主要投資家 | a16z crypto(リード、$75M)、BlackRock、Apollo Funds、ARK Invest、ICE、Janus Henderson、SBI Group、Standard Chartered Venturesほか |
| 投資家保護条項 | 複数年のロックアップと、所定の条件(トークン未交付、2028年5月までのPoS移行未達など)における返還請求権 |
| 収益認識 | 製品マイルストーンの達成に応じて認識。2026年内に$180M(全体の約75%相当)を見込む |
会計の扱いを押さえておく必要がある。プレセールで受け取った現金は、受け取った時点で一括して収益にならない。マイルストーンを達成するたびに、対応する分が収益として認識される。裏返せば、トークンが交付されない場合や2028年5月までにPoSへの移行が完了しない場合など、所定の条件を満たせないときには投資家への返還義務が生じる。Circleは製品ロードマップ上、マイルストーンの約75%が2026年中に達成される前提で$180Mを2026年の収益に織り込んでいる。
この$180Mは、USDCの流通や決済の利用量から生まれた収益ではなく、ネットワーク立ち上げの資金調達を製品開発の進捗に沿って収益化したものになる。継続的に積み上がる性質のものではないため、翌年以降に同じ金額が繰り返される前提では読めない。継続収益として評価できるのは、Arcの利用拡大に伴うネットワークサービス料や開発者向けサービスなどのプロダクト収益が実際に立ち上がってからになる。
06ガイダンス上方修正は、Arcを除くと切り下がっている
通期ガイダンスの改定内容を並べると、上方修正の中身がはっきりする。Other Revenueは$150〜170Mから$310〜330Mへ、RLDCマージンは38〜40%から41.7〜43.7%へ引き上げられた。調整後営業費用は$570〜585Mで据え置き、ただしレンジ上限寄りの着地が示唆されている。USDC流通残高の40% CAGRも据え置かれた。
問題は内訳になる。改定後のOther Revenue $310〜330Mのうち、$180MはARC Tokenプレセールの認識分で、残るその他プロダクトの寄与は$130〜150Mとされた。従前ガイダンスの$150〜170Mは、そのまま「その他プロダクト」の見通しを指していた。つまりArc分を除いた本業の非Reserve収益の見通しは、$150〜170Mから$130〜150Mへ静かに切り下がっている。
RLDCマージンの引き上げにも同じ構造がある。Fox-Geen CFOは改定レンジについて「Arc収益を除けば、通期のRLDCマージンは従前レンジの中央値近辺に着地する見込み」と説明した。分配費用がほぼ発生しないArc収益が上に乗ることでマージンが押し上げられており、USDC本体の収益性が構造的に改善したという話ではない。前四半期に見えた「Reserve依存からの脱却」は、少なくともQ2時点では自律的な積み上がりとしては進んでいない。実際にOther Revenueは$34Mと、前四半期の$42Mから減っている。
07Arcメインネット9月16日と、金融機関が並ぶバリデータ
会計の議論とは別に、Arcの実装は前に進んだ。Circleは公開メインネットの立ち上げを2026年9月16日と明示し、プライバシー機能・エージェント向けスタック・トークン化された実物資産のサポートを含む製品群を同時に公開する方針を示した。エコシステムの構築者は100を超えている。ただし立ち上げ時の構成は、ARC Tokenで動くチェーンではない。メインネットはCircleを含む限定されたバリデータ群が運営するPoA(あらかじめ承認された運営者が検証を担う方式)で始まり、ガス料金(取引の手数料)にはUSDCを用いる。ARC Tokenの導入は、その先のPoS系への移行に紐づく。
注目すべきは、創設バリデータの顔ぶれになる。Circleに加え、BlackRock、DTCC(米国の証券保管・決済機関)、Galaxy、Global Payments、ICE、Mastercard、MoneyGram、SBI Group、Standard Chartered、住友商事、Visaが名を連ねた。Circleはこれを「ネットワークの健全性に依存する機関が、そのネットワークを自ら守る」構造と説明している。BlackRockはトークン化マネーマーケットファンドのBUIDLをArc上に展開する見込みで、DTCCは自社が保管する証券のトークン化をArc上で可能にするとされる。
ここには読み方の注意がいる。バリデータ参加は、その機関が本番業務の全量をArcへ移すことを意味しない。ノード運用への参加と、実際の取引フローの移行は別の意思決定になる。ただし、決済・証券保管・カードネットワークの主要な担い手が、少なくとも技術的な検証と運用参加の段階まで来たことは、パブリックブロックチェーンとしては異例の顔ぶれにあたる。
制度面の進展も同じ四半期に重なった。Circle傘下に、OCC(米通貨監督庁)が認可した全国信託銀行「First National Digital Currency Bank, N.A.(Circle National Trust)」が誕生し、ニューヨーク州金融サービス局からも「Circle New York Trust」の認可を得た。開業時点の業務はCircleおよび関連会社向けのデジタル資産のフィデューシャリー・カストディ(受託者としての保管)で、USDC準備金の管理は将来の機能として計画されている段階になる。準備金の運用と保管に自社グループの裁量がどこまで及ぶかは、Reserve Incomeの構造そのものに関わる論点になる。
08CPNとAgent Stackは規模ができ、収益化はこれから
CPN(Circle Payments Network)とはで構造を整理した決済ネットワークは、Q2で規模の面が明確に立ち上がった。年率換算取扱高は期末時点で$14.7B(+76% QoQ)、参加金融機関は175(+29% QoQ)に達し、7月31日時点では直近30日ベースで$23Bまで伸びている。前回決算時点の約$10Bから2.3倍にあたる。
| 事業KPI | Q1 2026 | Q2 2026 | 備考 |
|---|---|---|---|
| CPN年率換算取扱高 | $8.3B | $14.7B | 7月31日時点で$23B |
| CPN参加金融機関 | 136 | 175 | 58カ国以上をカバー |
| Agent Marketplaceの有料サービス | ─ | 900以上 | 2026年5月に提供開始 |
| x402決済のUSDC比率 | 99.8% | 99.3% | Circle開示ベース |
| Arcエコシステム構築者 | ─ | 100以上 | メインネットは9月16日 |
導入事例も、実験の段階から実装の段階へ移りつつある。BNYは自社のデジタル資産カストディ基盤にUSDCの発行・償還を組み込み、Standard Charteredは銀行主導の窓口ひとつで法定通貨とUSDCを交換できる仕組みを始めた。Niumは190カ国以上の送金網とUSDC決済を接続し、Marexは米CFTC規制下のデリバティブ清算で当初証拠金にUSDCを差し入れる初の取引を実現した。日本ではJCBが加盟店網とCircleの基盤を組み合わせ、クロスボーダーの資金移動と訪日客向けの店頭決済から着手する。
ただし、ここまで規模が伸びてもCPNはまだ収益として計上されていない。Fox-Geen CFOは「収益化を始める時期に来ており、今年の後半から本格的に始める」と述べるにとどまった。取扱高$23Bに対してどの水準の手数料率を乗せられるかは開示されておらず、Other Revenueの実額に効いてくるのは早くても2026年下期以降になる。規模を作る局面と、そこから収益を取る局面のあいだに、まだ時間差が残っている。
AIエージェント関連では、5月に提供を始めたAgent Stackが900以上の有料サービスを抱え、x402プロトコル経由のエージェント決済の99.3%がUSDCで決済されているとされる。前四半期の99.8%からはわずかに低下した。Circleは下期に「エージェントが稼げるようにする」方向へロードマップを広げる方針を示している。
09市場の反応と、次に見るべき論点
市場の受け止めは分かれた。総収益$701Mは市場予想の$713M前後を下回り、希薄化後EPS $0.18も予想を下回った。一方でガイダンスの引き上げが評価され、発表当日の株価は一時7%上昇と5%下落のあいだで振れたのち、小幅な動きで終えている。決算の2日前には米大手証券が投資判断を引き下げ、目標株価を$106から$38へ切り下げていた。USDC流通の減速と競合の増加が理由に挙げられている。
次の四半期に向けて見るべき論点は4つに絞られる。第一が、9月16日のArcメインネット立ち上げと、それに紐づくマイルストーン達成の実績になる。$180Mの収益認識は達成が前提であり、遅延は認識時期の後ろ倒しに直結する。第二が、CPNの収益化の単価で、取扱高$23Bにどの程度の手数料が乗るかが非Reserve収益の持続性を決める。第三が、USDC流通残高の反転可否で、期末$73.3Bから年内にどこまで戻すかが40% CAGRガイダンスの信頼性を左右する。第四が、金利の方向で、Reserve Return Rateが3%台前半へ下がれば、残高の伸びだけで増収を保つのは一段と難しくなる。
加えて、傘下の信託銀行が認可されたことで準備金の管理体制がどう変わるかも、中期の収益構造に関わる。準備金の運用・保管に自社の関与が広がれば、外部委託にかかっていたコストの一部が内部化される余地が生まれる。具体的な実装方針は今回の開示では示されておらず、次回以降の説明を待つ段階にある。