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ルールベースのティアフォー、AIのテスラ ─ 自動運転で分かれる道

自動運転には、大きく二つの道がある。人があらかじめ書いたルールで車を動かすルールベースと、AIが運転をまるごと学んで判断するエンドツーエンドになる。テスラは約30万行のルールを捨てて単一のニューラルネットに賭け、世界中の自社車両が集めるデータで先行する。対する日本のティアフォーは、オープンソースの基盤ソフト「Autoware」と、ルールベースとAIを組み合わせる戦略で、限定領域のレベル4を狙う。同社は2026年7月22日に上場するが、想定時価総額は約700億円と直近の評価額を下回り、AI開発競争のなかでの立ち位置が問われている。本稿は、両者の技術と戦略の違いを基礎から整理する。

01そもそも「ルールベース」と「エンドツーエンドAI」とは

はじめに、自動運転の二つのつくり方を押さえておく。一つ目のルールベースは、運転を「認知(まわりを見る)・判断(どうするか決める)・操作(ハンドルやブレーキを動かす)」の工程に分け、それぞれを人がプログラムで書く方式を指す。「赤信号なら止まる」「前の車に近づいたらブレーキ」のように、条件と動作をあらかじめ決めておく。動きの理由を人が説明でき、検証もしやすい一方、ルールに書ききれない複雑な場面や想定外の状況に弱い。

二つ目のエンドツーエンド(E2E)AIは、カメラなどの入力から運転操作までを、一つの大きなニューラルネットワークがまとめて学習し判断する方式になる。膨大な走行データから「こういう場面ではこう動く」を、人が運転をおぼえるように学ぶ。複雑な場面に強く、データを増やすほど賢くなる一方、なぜその判断をしたのかを人が追いにくく(ブラックボックス)、大量のデータと計算資源が要る。この二つのどちらに賭けるかが、各社の戦略を分けている。

ルールベースとエンドツーエンドAIの仕組みの違い ルールベースは認知・判断・操作の3工程に分けて人がルールを書く。エンドツーエンドAIは入力から操作までを一つのニューラルネットがまとめて学習する。 二つのつくり方 ─ 工程を分けるか、AIにまとめるか ① ルールベース 認知 判断 操作 工程ごとに分け、人がルールを書く(理由を説明できる) ② エンドツーエンドAI 入力(カメラ) ニューラルネット (まとめて判断) 操作 入力から操作までAIが一括で学習(中身は追いにくい)
FIG.01ルールベースは工程を分けて人がルールを書くため検証しやすい。エンドツーエンドAIは一つのネットワークがまとめて学ぶためデータで強くなる一方、判断の理由を追いにくい。

02テスラの道 ─ ルールを捨て、AIに賭ける

テスラは、E2E AIに大きく振り切った代表格にあたる。運転支援ソフト「FSD(フル・セルフ・ドライビング)」は、かつて手作業で書いた約30万行のルール(C++コード)に依存していた。これを、数百万本の走行動画で訓練した単一のエンドツーエンド・ニューラルネットに置き換えた。人がルールを足していくやり方から、データで学ばせるやり方へと、つくり方そのものを切り替えた格好になる。

テスラの強みは、世界中を走る自社車両が日々集める巨大な走行データにある。データが増えるほどAIが賢くなる構造のため、量で先行するほど差が開きやすい。半導体側でもNVIDIAがAI基盤を広げ、データとAIで押す陣営の層が厚みを増している(テスラの垂直統合と世界の3極構造は別ノートで扱った)。

03ティアフォーの道 ─ 開かれた基盤とハイブリッド

これに対してティアフォーは、別の賭け方を選ぶ。名古屋大学発のこのスタートアップは、自動運転の基盤ソフト「Autoware(オートウェア)」をオープンソースとして公開し、誰もが使える共通基盤に育てる戦略をとる。掲げるのは「自動運転の民主化」で、1社が技術を囲い込むのではなく、多くの事業者が同じ基盤に乗って開発できる形を狙う。この「開かれた基盤」という発想は、自社で囲い込むテスラと対照をなす。

技術の中身でも、ティアフォーは一方に振り切らない。同社が「自動運転2.0」と呼ぶ設計は、安全性を確実に担保するためのルールベース(ロボット工学的なアプローチ)と、複雑な場面に対応するためのE2E AIを、一つにまとめたハイブリッドになる。東京大学松尾研発の松尾研究所と組んで生成AIや大規模な「世界モデル」の開発も進め、その成果もオープンソース化する方針を示した。レベル4以上に向けたE2Eアーキテクチャを公開し、全国50箇所での実証を進めるなど、安全を説明できる形で限定領域のレベル4を社会実装することに重きを置いている。

ティアフォーの自動運転2.0(ハイブリッド) 安全を担保するルールベースと、複雑な場面に対応するエンドツーエンドAIを一つに束ね、自動運転2.0として限定領域のレベル4を狙う。 ティアフォーの「自動運転2.0」─ ルールとAIを束ねる ルールベース 安全を確実に担保(説明できる) エンドツーエンドAI 複雑な場面に対応(可用性) 自動運転2.0(ハイブリッド) 説明できる安全のうえで、限定領域のレベル4へ
FIG.02ティアフォーは、安全を説明しやすいルールベースと、複雑な場面に強いエンドツーエンドAIを一つに束ねる「自動運転2.0」を掲げる。一方に振り切らない設計を特徴とする。

04二つの道を並べて見る

テスラとティアフォーの違いを、観点ごとに並べると見通しやすくなる。

観点 テスラ ティアフォー
技術方式エンドツーエンドAI(単一のニューラルネット)に集約ルールベース+E2E AIのハイブリッド(自動運転2.0)
ソフトの開き方自社で囲い込む垂直統合オープンソース(Autoware)で共通基盤を開く
学習の元手世界中の自社車両が集める巨大な走行データ限定領域の実証、出資する事業会社との連携、世界モデルのオープンソース化
当面の狙い広い範囲で運転支援を量的に展開し、データを集める特定条件(ODD)でのレベル4を確実に社会実装する
担い手の構造1社が全工程を抱える多数の事業者が共通基盤に乗る

どちらが正しいという話ではなく、賭けどころが違う。テスラはデータとスケールに、ティアフォーは開かれた基盤と安全の説明可能性に賭けている。両者は、自動運転をどう社会へ広げるかという問いに、別の答えを出している。

05上場で問われる立ち位置 ─ 「埋没懸念」と700億円

その違いが、資本市場でも試される。ティアフォーは2026年7月22日に東証グロース市場へ上場する。公募・売り出し価格は1株1015円、1744万株を新規発行して約193億円を調達する。出資元には、筆頭株主のSOMPOホールディングス(約21.3%)を先頭に、ヤマハ発動機・いすゞ自動車・KDDI・トヨタ自動車(約1%)など、保険・自動車・通信の事業会社が並ぶ。創業者の加藤真平CEOも主要株主で、日本発の自動運転を担う一社として、幅広い事業会社の支えを得る形になる。

ただし、想定時価総額は約700億円と、直近の評価額を下回った。自動運転向けAI開発の競争が激しくなり、NVIDIAなどがAI基盤を広げるなかで、ルールベースと開かれた基盤を軸とするティアフォーの価値が「埋没」しかねないという見方が、評価に表れている。データとスケールで押すAIの大波のなかで、別の賭け方をどう正当化するかが、上場後に問われていく。

06事業の目線 ─ 勝ち筋とリスク

事業として見ると、ティアフォーの戦略には固有の勝ち筋がある。第一に、オープンソースのAutowareを共通基盤に広げられれば、自社だけで稼ぐのではなく、基盤の上に多くの事業者が乗るエコシステムから収益を得られる。第二に、判断の理由を説明できるルールベースは、レベル4の認証や事故時の責任が問われる社会実装の場面で効きやすい。第三に、まず特定条件のレベル4を確実に動かす積み上げ方は、広域を一気に狙うより、限られた領域で先に事業を立てやすい。出資する自動車メーカー(いすゞ・ヤマハ発動機・トヨタ等)との連携も、車両と実装現場をつなぐ後ろ盾になる。

担い手の構造の違い テスラは1社が全工程を抱える垂直統合。ティアフォーは共通基盤Autowareを開き、その上に多数の事業者が乗るエコシステム。 担い手の構造 ─ 1社で抱えるか、基盤を開くか テスラ 1社が全工程を抱える データ・AI・車両・サービス 垂直統合 ティアフォー 事業者A 事業者B 事業者C 共通基盤 Autoware (オープンソース) 開かれた基盤に多数が乗る
FIG.03テスラは1社が全工程を抱えて利益を取り込む。ティアフォーは共通基盤Autowareを開き、その上に多数の事業者が乗るエコシステムから収益を得る。価値の取り方が対照的になる。

一方で、リスクもはっきりしている。データを増やすほど賢くなるE2E AIの土俵では、世界規模で車両を走らせるテスラのデータ量とスケールに、量で対抗するのは容易でない。AIの計算資源と資金力の差も重い。想定時価総額が直近評価を下回ったことは、その差を市場が織り込んだ表れともいえる。価値配分の構図も対照的で、1社が全工程を抱えて利益を取り込むテスラに対し、開かれた基盤に多数の事業者が乗るティアフォーは、エコシステムが育つかどうかに事業の成否が左右される。技術の優劣より、どちらの社会実装の形が先に回り出すかが、当面の分かれ目になる。

結論:二つの道は優劣ではなく「賭けの違い」

テスラはルールを捨ててデータとスケールに賭け、ティアフォーは開かれた基盤と安全の説明可能性に賭ける。前者は広い範囲に量で広げてAIを賢くする道、後者は限定領域のレベル4を確実に積み上げる道で、どちらも自動運転を社会へ広げる別々の答えにあたる。上場で時価総額が直近評価を下回ったことは、AIの大波のなかでティアフォーの賭け方が市場に試されていることを映す。技術の優劣ではなく、量のAIか、開かれた基盤と確実な社会実装か──この賭けの違いが、これからの勝ち方を分けていく。

本ノートの位置付け:本ノートは、Nagasawa & Associates が独立リサーチャーとして公開する一般的な情報提供・啓蒙目的の分析であり、特定の企業・銘柄・金融商品の購入・売却・保有を推奨するものではありません。投資助言・金融商品の販売勧誘・税務助言のいずれにも該当しません。記載の技術方式・出資・上場条件・時価総額・実証規模・時期は公開情報をもとにした概要・推計を含み、参照元や前提によって幅があります。技術・市況は流動的で、本稿の内容は執筆時点のものです。
主要出典
日本経済新聞「ティアフォー7月上場へ 日本発の自動運転、NVIDIA拡張で埋没懸念」(日経、2026年6月。上場日2026年7月22日・公募価格1015円・新規発行1744万株・調達約193億円・想定時価総額約700億円〔直近評価額を下回る〕・出資はSOMPOホールディングス〔筆頭・約21.3%〕・ヤマハ発動機・いすゞ・KDDI・トヨタ〔約1%〕等の事業会社・AI開発競争による埋没懸念)/株式会社ティアフォー 有価証券届出書(関東財務局、2026年6月9日提出)/ティアフォー「自動運転レベル4+向けE2Eアーキテクチャを公開、全国50箇所で実証へ」「松尾研究所との自動運転2.0/大規模世界モデルのオープンソース化」プレスリリース/テスラFSDのエンドツーエンド化(約30万行のC++コードから単一のニューラルネットへ移行〔FSD v12〕)に関する技術解説。技術方式・数値・時期・出資は公開前に各一次資料で再確認する。